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4:君のためなら
僕は覚悟を決めて、撃たれ続ける彼女のために言葉を紡ぐことにした。
「バグは僕の方だ」
「どうして? はじめ君は」
「撃たれてるのは僕の方だから。姿が変わったのは別の話だ」
「どう、して?」
僕はできるだけ彼女を見て話そうとするが、結局天を見上げるのが精いっぱいだった。
「彼女がいるくせに慣れてきたみたいな贅沢な悩みを持っていた。刺激がほしくて、君が異形とかしたのが嬉しかった、特別な君を見てわくわくしていた。世界が一度終わると聞いて嬉しくなってしまった。君の母親の反応を見て、君は僕だけのものだって思ってしまった」
彼女は何も言わない。
「君が好き、なのにあまり伝えられていなかった」
「私もだよ、大好き」
「あと、君のことを心の中で彼女って呼んでた。名前を呼ばないから、メッセージアプリのアカウントが『らっこぴょい』って名前で、ラッコがアイコンになってることしか覚えてなくて、彼女なのに名前忘れてるんだ」
クスッと笑い声が聞こえた。
そのとき、彼女が光り輝いて、西洋甲冑を吹き飛ばした。
「私の名前はつかさ、二度と忘れるな! この大馬鹿。でも間違えだらけのはじめ君が好き、私は君がいない世界なら、」
彼女が拳を握ると竜巻が発生して西洋甲冑を吹き飛ばす。
「そんな世界は必要ない。一緒にバグろう、おかしな世界の方が好き」
「君が彼女で良かった」
「つかさって呼んで。じゃないとまた名前忘れちゃうよ?」
それから。
つかさは西洋甲冑をひたすら吹き飛ばした。
パニックがだんだん収まる。
「バグの処理が終わりません!」
陽気な少女の声が脳に直接響く。
つかさは西洋甲冑を倒しながら言う。
「ざまあみろ」
ただ。
「化け物!」
つかさは異形になってしまったため、西洋甲冑と同じ類だと思われている。
覚醒して身体が光っているのも不気味なのかもしれない。
一部ではむしろパニックの中心となっていた。
「今日はもう帰ろう」
「ああ」
僕の家に戻る。
それから、西洋甲冑を吹き飛ばして、僕の家に泊まる生活が続いて。
どうやら最後の日ももうすぐ終わるらしい。
「もう時間だよ、バグ処理終わってない。どーしよー!」
脳に陽気な声。
僕は彼女と家でポテトチップスを食べていた。
そのとき、僕も彼女も身体が透け始める。
僕も彼女も笑ってしまった。
「楽しみ?」
「ああ」
「私はどうだろう? この異形で敵を倒すのは面白かったから。だからちょっと寂しいかもね!」
僕らは透明になって、世界は光に包まれた。
今まで生きてきたα世界は神様によれば、サービス終了ということだ。
「β世界ではα世界で存在した物理現象に加えて魔力を中心とした魔法が存在します。それと、α世界サービス終了の詫びとして一つだけ運命として決定的な未来を授けることができます」
少女がミニスカート姿で目の前にいた。
よく見ると僕の父や母もいて時々手を振ってくる。
雲の上?
神が用意した世界らしいが。
肩を叩かれた。
「はじめ君、久しぶり」
「ついさっきまでいただろ、つかさ」
「でも久しぶりだよね、この姿」
つかさは人間の姿に戻っていた。
「はじめ君は何を望む?」
「僕はチート魔法」
「なにそれ?」
「β世界を生き抜くための呪文」
「ふーん」
「拗ねてるの?」
「私と違うんだなって」
つかさは冗談っぽく頬を膨らませる。
「どんな望みにするの?」
「はじめ君といて楽しかったから。そういうこと」
「なんだそれ。僕はチート魔法だけどな!」
「はいはい。私にも利点ある?」
「さあ」
「そろそろだってさ。一斉に願いを頭に浮かべて、すぐにβ世界に切り替わるんだって」
「そうなんだ」
「本当に楽しかった、幸せだった。だから私の望みは、」
恥ずかしそうにして。
「またはじめ君と出会うこと」
それを聞いて僕は笑ってしまう。
つかさらしいのかもしれない。
僕の願いはチート魔法だ。魔法世界なら。
でももう一つ願いがあるのなら。
彼女がいる生活も悪くなかったから。
僕はつかさ以上に相性がいい女性と恋をしたいって思った。
―バグを発見しました。
(完)
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