【出発】

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今日明日、絶好の秋晴れで 湿度も低く、過ごし易いと さきほど、 めざましテレビのお天気お姉さんが 言っていた。 秋晴れの下、 ひずえに色々な景色を見せたい。 狭い車だが、気持ちよく快走したいので この旅は、コンバーチブルで行こうと 決めていたのだ。 「ひずえ、今日はこっちの車にするよ」 ドアハンドルが特殊な形状をしており、 通常はドア内に格納されている。 このドアの開閉に、ひずえはいつも苦労している。 「出て来ないぞーーー」 「ごめん、ごめん、ロック解除するね」 [ウィーーン] 「出て来たー♪」 ひずえが乗り込んだ車内は、 いつものひずえの芳しい(かぐわしい) 香りが広がる。 私は、この香りがすると、 香りの発香元を探したくなり、 ひずえをクンクンする癖がある。 「いっくん、いやーーー」 毎度、言われる「ひずえのいやー」である。 香りとは、 とても重要だと思っている。 特に私の場合、 妻であるひずえを、どこに居ても この香りで認識するから、 とっても重要なのである。 本当に良い香りなのだ。 車のスタートボタンを押すと、 V6 3.5Lエンジン+ハイブリッドシステムの ユニットに火が入り、 寝ていた車が息を吹き返す。 [ブォーン] メーターパネルがボワンっと立ち上がり 走行の準備が完了である。 「さぁーーて、出発だー」 ひずえが元気いっぱい、腕を振り上げた。 「ひずえ、いつものchuだよ」 車で出発する時には、決まって 我々夫婦は、小鳥のキスをする。 軽くチュっとするキスのことである。 ひずえのプリンとした唇が近づくと 淡い桜の香りがした。 ひずえが、ニヤリとして、クリクリした 目でこちらを見てる。 「いい香りでしょー、  この前、八重洲で買ってくれた  桜のリップだよぉー」 [chu] 車庫の自動開閉ボタンを押して、 ゆっくりと車庫のシャッターが上がるにつれて まだ、低い位置にある太陽の陽差しが ファーっと車内を明るく照らし出す。 ひずえが少し眩しそうに、私の方に顔をそむけた。 車庫から右折をして、幹線道路に車を走らせると、 バックミラーに映る我が家がどんどん 小さくなっていく。 「この旅行も、安全に行かないと」 そう心に刻んで、ハンドルを握りしめた。
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