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ギターやドラム、ベースを打ち込んだものにピアノを重ねていく。
園原さんにOVERFLOWの曲を作って欲しいと言われてから、自分なりに取り組んできた。花名が歌うのに良さそうな曲も作っていたけれど、結局千織さんが誘拐されたことで、すべて立ち消えになってしまっている。
ボストンのシンの家に花名がいる間、少しでも安心して過ごしてもらうために気持ち以外での繋がりを持てないだろうかと考えていたから、こうやって音楽制作をしていくのもいいのかもしれないと思った。
若干心配なのは、会える時間も花名が音楽に夢中になってしまう可能性があるところだと言ったら、シンにまた呆れられるかもしれない。
今も花名はソファで繰り返し、昔の録音を聴き続けている。こういう状態になったら、よほど強い声掛けをしない限り、彼女は自分の世界から出てきてくれない。
それでも僕の書いた曲の世界に入っているんだと思えば繋がりを感じられるのかもしれないなと考えてから、離れるのが不安なのは僕の方なのだと自覚する。
「花名! 一回やってみようか」
ピアノに座ったまま振り返り、大きい声で呼びかけると、彼女は目をまん丸にして顔を上げてから、笑顔で頷き、走ってきた。
「簡単にではあるけど、伴奏をつけてあるからこれに合わせて歌ってみて」
音楽を流して曲の構成を説明する。真剣な表情で花名は聞いている。
演奏の準備が整うと、彼女は一旦上を向いて息を整えてから、始めましょうというように頷いた。
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