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出会えたこと
「若が猫に変化とはこりゃ大傑作でござる!」
「あれまあ、こんなに可愛くなっちまってえ。」
「いつもの色男が台無しですなあっ。うひゃひゃひゃひゃ」
珀のところで酒を飲んでいた落ち武者達が大盛り上がりで真人のことをいじり倒してきた。
珀が窘めなかったら小一時間は続いていただろう。
「くっそこいつら……元に戻ったら全員滅してやる!」
真人は血管が切れるんじゃないかってくらいブチ切れていた。怖い怖い……
珀は真人が猫になったことに別段慌てる様子はなく、巨大な蜘蛛の妖魔の話をしても落ち着き払っていた。
「そうかい、そのまま二人共吸い込まれていたらどこに行ったかも分からないところだったねえ。良い判断さ、さすが真人だ。」
「さすがではないだろ。俺が糸に捕まりさえしなければこんな事態にはならなかったんだから。」
真人の尻尾がくねくねと動いている。これは猫がご機嫌な時にする仕草だ。
本当は珀から褒められて嬉しかったようだ。
「それで、狭間には有象無象の妖魔がいるわけだけど、真人は体が吸い込まれる時になにか対策はしたのかい?」
「それなら糸魚川翡翠を身に付けていたから大丈夫だ。」
「華夜の勾玉か。なら安心だね。」
真人のお母さんの肩身のペンダントのことだ。あれを身に付けている者には悪意のある霊は触れられないと言っていた。
返しといて正解だった。
真人は申し訳なさそうに珀を見上げた。
「俺の体……珀に頼んでもいいか?」
珀はにっこり笑うと真人のノドに指を当てて毛並みにそって優しく撫でてあげた。まるで飼い主が猫にするかのように……
一瞬ゴロゴロとノドを鳴らしかけた真人がハッと我に返った。
「珀……おまえも面白がってんだろ?」
珀はいつもの笑い方でククッと楽しそうに肩を揺らした。
多分この状況って大変な事態だと思うのだけれど、みんなのやり取りが可笑しすぎて私もつい笑ってしまった。
真人がますます不機嫌になっていく……
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