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庭を囲む竹垣の隙間を潜り抜けてニャ太郎のいる松の木へと猛ダッシュした。
木の下からおいでと呼んでみたのだか、ニャ太郎は飛び掛かるタイミングを計っているのか聞こえていないようだった。
これはヤバいと思い私も松の木によじ登った。ニャ太郎のいる枝まできて四つん這いになったのだが、手を伸ばしたとたん足が滑って宙ぶらりん状態になってしまった。
どどど、ど~しよーっ!!
これじゃあまるで丸焼きの豚だ。
遠くでガラッと引き戸を開ける音がした。
「他人の家の庭でなにをやっているんだ?」
広い庭に響き渡ったのは、清明で透き通った男性の声だった。
どうやらここの住人に見つかってしまったようだ。
最悪の状況に恥ずかしすぎて顔見せできないっ。
「ち、違うんです!これにはちゃんと事情があってっ……」
「だから、なにをしているかと聞いているんだ。」
二度同じことを言わせてしまい苛立たせてしまったようだ。未遂とはいえニャ太郎の犯行を素直に自供して謝り倒すしかない。
「実はこちらの錦鯉を食べようとしていたんで捕まえようかと庭に……」
って、ニャ太郎がいない!さっきまで目の前にいたのにどこいったの?!
男から呆れたようなため息が聞こえてきた。
「つまり、おまえは錦鯉を焼き魚にして食おうと思って盗みに入ったってことか?」
とんでもない誤解だっ!!
食べようとしていたのはネコだと言おうとしたのだが、その前に腕が痺れてきた。このままでは池に落ちてしまう……
図々しいだろうけれども、先ずは助けを求めなければならない。
意を決してその声の主の方に振り向いた瞬間、ゆっくりと時が流れていくような不思議な感覚がした。
縁側の柱に気だるそうに体をもたせかけたその人は、木漏れ日の中でキラキラと輝いて見えた。
スラリとした長身、艶やかな黒髪に端正な顔立ち……
切れ長の漆黒の瞳で真っ直ぐに私のことを見つめていた。
この美しい日本庭園と見事なまでに調和した、凛とした美青年だった。
しばし惚けて見とれてしまったのだが、私はあることに気付いてしまった。
この角度からだったらスカートの中があの人に丸見えになってるんじゃない……?
たぶん……いや、今日私……
オーバーパンツ履いてない!!!
激しい水しぶきの音を最後に、私の記憶は途切れてしまった。
西園寺 真人〜さいおんじ まひと〜
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