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「真人もやるねえ。こんな可愛らしい子を家に連れ込むだなんて。隅に置けないねえ。」
「うるさい。くだらないこと言ってんならとっとと消えろ。」
話し声に目が覚めてうっすら目を開けると、天井板の美しい木目が飛び込んできた。
ぼんやりとした頭で辺りを見回すと百畳はあろうかというだだっ広い和室……どうやら私は畳に敷かれた布団の上で寝かされているようだった。
枕元には今日着ていた服が濡れた状態のまま袋に入れられている。
そうだ私……池の中に落ちたんだった。
思い出したら一気に頭が冴えてきて布団から飛び起きた。
服はちゃんと着ている、スウェットの上下だ。でもどうやって着替えたのっ……?!
さきほどの黒髪の青年と目が合った。
まさかと思い、顔がみるみるうちに真っ赤になった。
「言っておくが、着替えさせたのは女の使用人だ。なに勘違いしてんだ泥棒ふぜいが。」
呆れたように言い放たれてしまった。
変な風に勘違いした私が悪いのだが、泥棒呼ばわりは聞き捨てならない。
「違います!食べようとしてたのはうちで飼ってたネコで、私はそれを止めようとしただけなんです!勝手にお庭に入ったのはごめんなさいっ。でもっ……」
青年は私の話を遮るようにシッシッと手を振った。
なにそれっ……人が心を込めて謝ってるのにちょっと酷くないっ?
「真人は相変わらず冷たいねえ。本当は心配してずっと起きるのを待ってたくせに。」
真人と呼ばれたその青年はギロリと縁側に座る人物を睨みつけた。
そこには大輪の華々が描かれた鮮やかな着物に身を包んだ男性が煙管を吹かせながら腰掛けていた。
白銀の長い髪を無造作に結び、こちらを見つめるお顔は女性のように甘く麗らかだった。
緩んだ着物の隙間からは白い肌がみぞおちの辺りまで見えていて、男の人なのになんだかすっごく色っぽい。
この屋敷……顔面偏差値高すぎるでしょ。
「おや?真人。もしやこの子……」
着物の男性はふわりと立ち上がると、氷の上を滑るかのように音もなく近付いてきた。
いきなり距離を詰められてオドオドとしていたら、真人も私のことを探るように覗き込んできた。
「おまえ、珀が見えるのか?」
「ほぇ?」
質問の意味が分からず変な声が出てしまった。
すると突然、庭から猛スピードで現れたニャ太郎が私の前を陣取った。
珀に向かって毛を逆立て、激しく威嚇している。
ニャ太郎のこの反応って……
まさかこの人────────
珀〜はく〜
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