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私は物心がついた時から他の人には見えない恐ろしいものが見えていた。
なるべく見ないように気付かれないようにして過ごしていたけれど、それでもそばに寄って来るものがいて……
そんな時、必ずニャ太郎が助けてくれた。
今みたいに小さな体で必死になって私を守ってくれたのだ。
「とても賢いネコだ。大丈夫、私は君のご主人様に危害を加える気はさらさらないさ。」
珀はそう言うと、再び縁側までスっと下がって腰を下ろした。
「あのっ……もしかして珀さんて……?」
「ああ。あいつは幽霊だ。」
嘘でしょ?!驚きすぎて声も出せずにいる私に、珀はニッコリと微笑みながら煙管を吹かしてみせた。
今まで幾度となく幽霊に遭遇してきたけれど、こんなに普通に人間と変わらない霊に会ったのは初めてだ。
「珀はこの家に取り憑いている迷惑な地縛霊だ。」
「ありがたいご先祖様だと紹介してくれるかい?全く、真人には愛嬌ってもんが足りてない。」
本当に……幽霊なんだ─────────
背筋がゾクッとしてそばにいたニャ太郎を抱き寄せた。
「ゴメンなさい私…幽霊が苦手で……」
今まで幽霊が見えることで散々な目に合ってきた。
誰も信じてくれなくて嘘つき呼ばわりをされたし、友達が気味悪がって離れていったのも一度や二度じゃない。
母は受け止めてくれたけれど、心配させるのが辛くなってきて言うのを止めた。
ニャ太郎だけがいつも分かってくれた。
初めて会った同じ境遇の人が平気そうに幽霊と話しているのを見て、とても羨ましく思えた。
「随分と怖い思いをしてきたのだね。次からはなにかあったら真人に頼ればいいさ。だって真人は……」
「────────珀っ!!」
珀の言葉を真人が激しい口調で制した。
「俺はもう辞めるって言っただろ。余計なことを言うな!」
二人の間に一気に不穏な空気が流れた。
珀は困ったような表情を浮かべてなにか言いたげに真人の横顔を見つめていたが、そのままスウっとどこかに消えてしまった。
「おまえももう家に帰れ。誰かいないか!客人がお帰りだ!!」
色々聞きたいことがあったのに追い出されるみたいに家から出されてしまった。
立派な門構え……この門だけで前に住んでたアパートの部屋より大きいかも。
門から続く真っ白な土壁にそって五分ほど歩いていくと、母が待つ家が見えてきた。
一応これはお隣さんというやつなのだろうか。
にしても……
「あんなに邪険にしなくったっていいのに、やな奴っ……」
腕に抱いていたニャ太郎がニャ~と鳴きながらザラついた舌で私の頬を舐めた。
励ましてくれているつもりなのだうか。元を辿ればニャ太郎のせいなんだけども。
「いい?隣の庭にはもう入っちゃダメだからね。」
私ももう行くことはないだろう。
せっかく知り合えた同じ境遇を持つ人だったのだけれど、全然住む世界が違うしそれになんだか……
自分のことには一切触れてほしくないって感じがした。
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