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がっかりしていたら笛が鳴り、打ち合いを止めた部員達が整列をしてお面を外し始めた。
一人前に出ていた白い防具を身につけた部員がお面を外した時、女の子達が揃って悲鳴を上げた。
あっ……あれは────────!!
頭に巻き付けた手ぬぐいで艶やかな黒髪は見えないけれど、凛とした端正な横顔には見覚えがあった。
運動直後の額に滲んだ汗や荒い息遣いに見とれそうになってしまったけれど、身を縮めて後ろに下がり走って逃げた。
住む世界が違うと思っていたのにまさか同じ高校だったなんて。私がここに転校してきたって知ったら露骨に嫌な顔をされそうだ。
なんとか相手の卒業まで顔を合わせないで過ごせないものか……
憂鬱な気持ちで職員室に行くと担任の先生が出迎えてくれた。見るからに人の良さそうなおっちゃん先生だった。
入学生に配布される手引きを元に学校生活での細かな説明を受け、必要な書類に記入していった。
書類は何枚あるんだってくらい同じことを書かされ、それだけで随分と時間を取られてしまった。
教科書を渡されたのだけれどすっごい量だ。
前の学校にはなかった教科がある……さすが進学校だ。
勉強ついていけるかな……
「先生、これ全部は持って帰れそうにないんで少し置いていってもいいですか?」
徒歩で来たことを後悔した。教科書に上履きに体操服にノートパソコン……とてもじゃないけどカバンには入り切らない。
幸い生徒一人ずつに鍵付きのロッカーがあるそうで、そこに置いていけばいいと教えてくれた。
ああそうだと先生はなにかを思い出し満面の笑みを見せた。
「もうすぐ剣道部の部長が体育館の鍵を返しに来るから、その生徒とロッカーまで一緒に行ったらいい。」
────────うん?
「生徒会長もやってる西園寺 真人って生徒でな、華道の家元の息子でもあるんだ。女子にも大人気なんだぞ~。」
「先生結構です!校内の地図もありますし一人で大丈夫です!」
急いでカバンに荷物を詰め込み入り切らない教科書を両手で抱えて扉を開けた瞬間、剣道着を着た生徒と思いっきりぶつかってしまった。
弾みで持っていた教科書がバラバラと相手の足の上に落ちてしまった。
「いってぇ~……」
しかめっ面の真人と目が合った。サイアクだ……
目の前にいるのが私だと気付いた真人は顔を逸らして小さく舌打ちをした。予想通りの反応だ。
「西園寺、ちょうどよかった。この子は転校生でな。ちょっと二年二組のロッカーまで連れてってくれるか?」
「大丈夫ですっ。私一人で行けますから!」
真人に謝り床に散らばった教科書を拾い集めたら、奪うように取り上げられてしまった。
「来いよ。案内してやる。」
「えっ…あのっ……」
戸惑う私を尻目に早足で歩き出すもんだからついて行くしかなかった。
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