民俗学者桜田民子の現地探訪録~時の糸~

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「いやぁ、それにしても一件落着だったね」運転する民子は上機嫌にアメリカンドッグを頬張りながら、タピオカに舌鼓を打つ。 「しかし、本当にかすり傷とは―――。」 「だから大丈夫だって言ったでしょ?」「そうぞなね―――」団三郎は少し腑に落ちない様子。  天狼との勝負は団三郎の100万ボルトで決着がついた。  そもそも天狼も被害者だったのだ。成体の天狼と幼体の地狼は親子であり、その母親は山に捨てられたシベリアンハスキー。しかし、大神と普通の犬では寿命が違い過ぎる。天狼は妻を生き返らせることが”糸を変える”ことによって可能であると助言されたそうだ。その者の容貌はかつて村で”糸を変える”ことによって流行り病を治した糸伝説の僧とよく似ていたという。    しかし、その糸を変えるためには女性の生き血が三人分必要だった。都合よく村では縁結びのスタンプラリーが開催されたのは渡りに舟。 「でも、天狼は女性に手を出していなかったぞな」そうなのだ。天狼は「元来太陽である女性を傷つけることはできない。それにわかっておったよ、死んだものを生き返らせることは不可能であると」それでもその手段に縋ろうとしたのは子を持つ親の本能なのだろう。 「それにしても良かったぞなか? 行方不明だった女性ふたりをしれっと道の駅の端に放置してきて」 「いいのよ。誰が見つけて事件解決になるんだから。わたしたちが警察に届けるといろいろ面倒なのよ」 「それもそうぞなね―――」 「まぁ、これで事件も解決したし、フィールドワークもできたわ。しかも経費は社会学研究室が出してくれるから」 「ん―――。民子が解決したことにするには民子が警察にあのふたりを届けた方が良かったと思うんだぞな。解決した証拠はどうするぞな?」 「ああ―――。それねぇ。ちょっと考えながら戻りましょうか」 「―――何も考えてねぇぞなね?」 「うるさいわね! あんたも一緒に考えなさいよ!」 「はい、はいぞな」 「はい、は一回でいいのよ?」 「はい、はいぞな」いつもと少し違う流れが始まった。
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