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地方の街並みの一画に、藤島メンタルクリニックという精神科の住居兼個人医院があった。
開業してまだ間も無いメンタルクリニックで、藤島八雲が三十三歳という若さで個人経営に乗り出した。
医薬大を卒業後、総合病院に勤務し私的事情から個人に移ったのである。
「咲ちゃん、起きて!」
八雲は二階にある部屋の前に立ち、ドアを強めにノックした。
部屋の奥から大きな物音が聞こえてくると、彼女が今目覚めた事に容易に想像がついた。
「着替えたら下に行くから!」
咲と八雲は親戚の姪と叔父にあたり、咲の両親が不慮の事故で亡くなった事もあって、八雲が身元を引き取った。
朝宮 咲。私立高校に通う二年生である。肩まで伸びるストレートの黒髪に、色白の肌、細身の体育会系女子である。
「咲ちゃん、車で学校へ送るよ」
八雲がドア越しの咲にそう呼びかけると、一階へと降りていった。
数分後、咲が慌てて部屋を飛び出すと、転げる様に下へ降りた。
二人はクリニックの側面にある自宅用玄関から出ると、駐車場に停めてあった青色のジムニーに乗り込んだ。
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