1

4/8
前へ
/220ページ
次へ
気付くとほとんどの生徒は好きな場所へ移動し、 カルトンに画用紙をセットしていた。 拓と敦也は辺りを見回して、空いている席を探す。 「おっ、友里ちゃんの隣が空いてるー! 俺あっち行くわ」 敦也はそう言って、ちゃっかりと友里の隣の席へ向かった。 となると、残りの席は一つしかないはずだ。 拓はその時漸く空いている席を見つける。 その席はなかなか良さそうだ。 モチーフがバランス良く画角に入りそうな場所だったので、 (ラッキー!) そう思いながら拓はその席へ向かった。 椅子に座り足元に鉛筆の入ったペンケースを置いた時、 右斜め前に真子がいる事に気付く。 真子の足元には、ラベンダーの絵が描かれた少し大きめの缶が置かれ、 その中には拓が持っている本数よりもかなり多い数の鉛筆が入っていた。 そして真子は手慣れた様子でカッターで鉛筆を削っている。 (すっげー) その見事な手つきは、長年彼女がそうやって鉛筆を削ってきた事を物語っていた。 思わずその手つきに見とれていた拓の頭を、誰かがペチッと叩いた。 「いってぇー」 「二時間はあっという間だぞ。さっさと始めろ! お前建築学科を受けるんだろう?」 葛城が拓に向かって言う。 すると拓は、 「あ、先生に言われた夏期講習、とりあえず申し込みました」 と葛城に答えた。 「そうかそうか...それなら少し安心だな。夏休みに基礎を徹底的に叩き込んでもらってこいっ」 葛城はそう言ってガハガハと笑いながら移動していった。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4239人が本棚に入れています
本棚に追加