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一時間ほど経過すると、教師の葛城が一人一人の指導に回り始めた。 生徒達の画用紙の上には、それぞれのデッサンがだいぶ出来上がっている。 今日のモチーフは、直方体の木材とワインの瓶、そしてリンゴ。 モチーフの下には柔らかい白い布が敷かれていた。 どれも真子の得意とするモチーフだったので、 手慣れた様子で鉛筆を走らせる。 その時、真子が指導される番が来た。 「宮田君は、うん...なかなかいいじゃないか! それぞれの質感がとても良く出ている。えっと、君は横浜女子美大を希望だったね?」 「はい...」 「今の調子で行けば大丈夫だろう。学科の方も頑張れよ」 「はい。ありがとうございます」 真子は指導が終わりホッとした。 そして、再びデッサンに集中し始める。 すると、今度は斜め後ろで葛城の声が聞こえた。 「長谷川はパースをもうちょっと勉強した方がいいな」 「パース?」 「そうパースだ。遠近法の事だよ。お前は将来建物を作りたいんだろう? それにはパースは重要だ。デカい建物なんかを作る場合には特にね。建築物は設計図と共に建物のイメージ画も必要だからなぁ。今はパソコンでも作成可能だろうが、やはりきちんとした基礎は身につけておかないとな」 「はあ......」 「エスキースの段階で大体の角度をきっちり抑えておいた方がいいぞ...」 「はぁ......」 「まっ、夏期講習で基礎から教えてくれるだろうから、しっかり聞いて来いよ」 葛城は拓のデッサンのパースの修正をしながらそう言うと、 拓の肩をポンと叩いてから次の生徒へ移動した。
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