突然の下命

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 エツスタンの民は、エツスタンの王族に対しての忠誠心が高いと言われている。ピエムスタ帝国の皇帝に従うくらいなら、誇り高く滅びの道を歩むだろう。だからこそ、やみくもに領地を拡げるより、共生によって得られる実利を優先したいとセアム三世は考えているらしい。  コルネリアは少しだけ俯き、じっと何かを考えた。艶のある髪が、さらさらと肩口からこぼれる。 「……ねえ、お父様。エツスタンの人々は、わたくしを歓迎しないでしょうね」  コルネリアの一言に、セアム三世は一瞬言葉を詰まらせ、暗い顔をした。 「その通りだ。あそこは色々難しい。……だからこそ、一生エツスタンに身を置けとは言わぬ。リシャールが成人する数年持ちこたえれば、それでいい。お前にはこれからしばらくの間、辛い思いをさせるだろうが、しばしこの国のためを思って耐えてくれ。リシャールが一人前になれば、すぐに破婚して帰ってくるように」 「はい、承知いたしました」
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