皇女の騎士

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皇女の騎士

 雲ひとつない秋の日の午後に、忙しい輿入れの準備の合間を縫って、コルネリアは図書館の裏にある中庭を一人で訪れた。  中庭にあるガゼボは、コルネリアのお気に入りの場所だった。このガゼボの横にはこんもりと茂る大きなクスノキが植わっており、姿を隠してくれる。ひとりで考え事をする際にうってつけの場所だ。  ガゼボのベンチにひとり腰かけたコルネリアは、小さなため息をついた。  中庭には四季折々の色とりどりの草木が生い茂っている。この時期はちょうどセージやアズレアが咲き乱れており、秋の風に揺れていた。晴れ渡った雲ひとつない空を、ツグミたちが歌いながら飛び、働くメイドたちの朗らかな笑い声が、遠くから聞こえる。あまりにいつも通りの風景だ。  ――わたくしが結婚するなんて、未だに信じられないわ。夫となるリシャールも、きっと今ごろ同じ気持ちなのかしら……。
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