プロローグ ※

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 窓の外は低く垂れこめた分厚い曇り空が広がっており、空には星ひとつ見えない。揺らめく蝋燭の頼りない灯りだけが、かろうじてリシャールの精巧な彫刻のような整った顔立ちを照らしている。癖のない輝くプラチナブロンドに、整った鼻梁。――そして、何より目を引くのが、闇の中で光るアイスブルーの瞳。  狂おしいほどの恋情に染まるその瞳は、コルネリアだけをまっすぐに見つめている。  ――まるで、リシャールではない男の人と一緒にいるみたい。  リシャールは、エツスタンの若き公爵であり、コルネリアの年下の夫だ。二人の結婚が決まったのは、リシャールが十二歳、コルネリアが十九歳のこと。コルネリアの父であるピエムスタ帝国皇帝セアム三世が決めた政略結婚だった。  二人の意志に関係なく決まった結婚であったが、コルネリアとリシャールの仲は良好だった。時折陰のある表情を見せる年下の夫が放っておけなくて、コルネリア甲斐甲斐しく世話を焼いた。先の戦争で両親を喪い、天涯孤独の身だったリシャールもまた、紆余曲折を経てコルネリアに心を開いた。
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