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古い本と葉巻の匂いがする執務室で、皇帝セアム三世は窓辺の椅子に腰掛けて腕を組んでいた。コルネリアと同じ栗色の髪には白いものがちらほら混じるものの、堂々とした体躯には皇帝としての威厳が漂う。
コルネリアは背筋を伸ばす。
「この国の偉大なる太陽、皇帝陛下にご挨拶申し上げます。お呼びでしょうか、お父様」
「おお、来たか。儂の大事な娘、コルネリアよ」
セアム三世は部屋に入ってきた愛娘を笑顔で迎えたものの、その笑顔にはどこか陰りがあった。皇帝に相応しい、全てを照らす太陽のような笑顔を浮かべている父にしては珍しい表情だ。心なしか顔色も悪い。
「お父様、どうなされたのですか? お顔色が優れないようですが」
「お前は相変わらず、優しい娘だ。しかし、儂のことを案ずる必要はない」
一瞬寂しげに微笑んだセアム三世だったが、次の瞬間には威厳のある皇帝の顔になった。
「我が娘、コルネリアよ。エツスタン公爵リシャール・ラガウェンのもとへお前を嫁がせようと思う」
急に結婚を下命されたコルネリアは、薄緑色の目を大きく見開いた。
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