最悪な初恋

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 今日も羽原が店に飲みに来てくれている。明日は羽原も優真も休みで、デートの予定だ。 「なににやけてるんですか」  呆れたような辰井の声にはっとして慌てて表情を引きしめる。最近の優真の表情筋は仕事をしなくて困ってしまう。そんな悩みも幸せだ。 「失礼しました」  辰井が噴き出すので、優真もほっとした。もし気まずくなってしまったら、それはやはりつらかった。恋人にはなれなくても、大事な同僚なのだ。 「……ごめんなさい」  いろいろな意味を込めて言うと、「ほんとですね」と笑われてしまった。  店を出ると羽原が待っていた。 「じゃあお先に。お疲れさま」 「お疲れさま」  気をきかせたように辰井が優真を残して先に帰っていく。優真は羽原と並んで歩いた。だがなぜか羽原は無言だ。 「どうしたの?」 「随分仲いいんだな」  どこか拗ねたような口調で、顔を見あげるとおもしろくなさそうに眉を寄せている。 「距離も近かった」  気に入らない、と顔に書いてある。羽原のそんな表情が可愛くて、つい調子にのってしまう。顔を下から覗き込んだ。 「嫉妬?」 「悪いか」  ふいとそっぽを向いてしまう羽原が愛おしい。こんな気持ちになる日がくるなんて、想像もできなかった。優真から手を繋ぐと、拗ねた表情が綻んだ。 「明日どこに行くの?」 「デートは中止」 「どうして?」  なにか用事ができたのだろうか。残念に思うと額を指でぐりぐり押された。痛い。 「これからうちに来い」  縋るような瞳にどきりとする。 「優真を離したくないんだけど、だめか?」  そう聞かれてだめだなんて答えられない。それに優真だって嫌ではない。あれから羽原はなかなか手を出してくれない。いっそ優真から誘おうか、と思ってしまうくらいにもどかしかったのだ。心の準備があるとかなんとか言っていた。  首を横に振ると手を引かれた。鼓動が激しくて、頬が熱い。この熱が伝わってしまったらどうしよう、と考えるだけで恥ずかしくなった。  部屋に入るとすぐに唇が重なった。優真を抱き寄せた羽原は嘆息した。 「嫉妬って苦しいな」  思わず笑ってしまった。笑うな、と視線を向けられるが、可笑しいに決まっている。こんなに素敵な人が嫉妬するなんて。 「優真にとって最高の恋人になるために嫉妬しないようにする」 「ふ」  やはり可笑しくて笑ってしまう。そんなところでも上を目指してどうするのだろう。 「嫉妬しても最高の恋人だよ」  そっと囁くと羽原が破顔した。この人をこんなにも可愛いと思うなんて、人生なにが起こるかわからない。キスが落ちてきて瞼をおろした。 「ん……ぅ」  啄むキスが徐々に情熱を孕んでいく。明らかに欲情させる意図をもって舌を絡められ、身体が熱くなってきた。 「……汗かいてるから」 「シャワー使うか?」  小さく頷いて身体を離す。逃げるように浴室に向かうが、なにもないところで躓いてしまい、少し振り向いてみたら羽原は肩を揺らしていた。恋人をそんなふうに笑うものではない、とむくれてしまう。  ついにこの日が来た。緊張で全身が糸を張ったようにぴんと強張る。いつそうなってもいいとは思っていたけれど、いざそうなるとやはり身体に力が入ってしまう。  念入りに身体を洗って羽原と交代した。どこで待つべきか悩んで、ベッドに腰かけた。遠くにシャワーの音が聞こえる。この音が止まったら――どきどきでおかしくなりそうだ。 「お待たせ」 「う、ううん」  羽原もどこか緊張したような面持ちで優真を見つめる。甘くキスを交わし、ベッドに寝かされた。身体をまさぐられ、耳に自分の心音が響く。頬は火が出そうなくらいに熱くなっている。微かに震える指先にキスをされてぴくんと身体が跳ねた。 「怖いか?」 「少し」 「俺もだ」  羽原が情けなく眉をさげる。そんなせつない表情さえ愛おしくて、羽原の指先にもキスを返す。 「勃たなかったり、だめだったりしたら、と考えると怖い」 「勃たなかったら……」  見おろすと、下半身はすでに臨戦態勢になっている。勃たなかったらなどとよく言えたものだと可笑しくなってしまう。頬にキスをしながら羽原の手が優真の昂ぶりをなぞる。 「優真も硬くなってきてる」 「だって」 「なに?」 「……そういうこと、言わせないでよ」  むう、とむくれてみせると頭をわしゃわしゃと撫でられた。豪快な可愛がり方に、むくれもどこかに飛んでいく。 「はあ、可愛い」  嘆息した羽原の唇が首もとや胸もとに触れる。くすぐったくて思わず身体を捩ってしまう。熱い吐息が肌に触れて、ぞわりと肌が粟立った。ふつふつとなにかが湧いてくる。それは身体を火照らせて、腰を重くさせた。 「口でしていいか?」 「だ、だめっ」 「本当にだめ?」 「……」  そういうせつない表情はずるい。「十秒だけ」と結局頷いてしまった。優真は弱い。  太腿にキスをした羽原が、ゆるりとした動作で昂ぶりを軽く扱き、それから口に含んだ。  驚くほど鋭い快感に全身がわなないた。つま先でシーツを蹴り、羽原の粘膜から逃げようともがくが、逃げられるはずがなかった。熱く包まれ、ねっとりとしゃぶられる。甘い刺激は簡単に優真を高めていく。 「あぅ……あ、あ……」  もう十秒経ったのに解放されず、目に涙が溜まってくる。揺らめく視界で羽原をとらえると、下腹部に顔をうずめている姿がひどく煽情的に映った。 「羽原さ……もう、だめ……離して……」  優真の懇願など聞いてくれず、続く熱い舌戯に翻弄される。 「もうだめ、だめ……」  ひくんと内腿が引き攣り、そこを大きな手でなぞられた。 「羽原さん……っ」  わずかに水分の残る髪を引っ張ると、ようやく解放された。優真を見つめる瞳はどこか不満そうだが、そんなことにはかまっていられない。自分の吐き出す息が熱すぎてくらくらする。 「キスしたい……」  羽原の首に腕をまわして引き寄せる。蕩けてしまいそうな視線が長い睫毛で縁どられた瞼で隠され、唇を食まれた。官能的なキスは思考を霞ませていく。羽原の手が胸を這い、淡く色づく突起をとらえた。  肩が跳ねて腰が鈍く疼く。両の突起を指先で転がされ、そこは赤く色をもってぷくりと尖った。潰されると小さく痺れるような快感がもどかしい。つままれて指先で擦られ、思わず声が出てしまった。 「う……あ」 「優真、気持ちいいか?」 「ん……」  こくんと頷くと、ほっとしたような顔をされた。上気した頬と情熱を宿した瞳から男の色気が滲み出ている。 「こんなに身体が熱くなるのは初めてだ」 「あっ……」  肌のあちこちに唇の跡を残される。その小さな刺激さえ優真を昂ぶらせた。大きな手の片方が優真の下腹部を滑り、尻の狭間を撫でた。窄まりに触れると、優真よりも羽原のほうが熱い吐息を零した。 「優真のすべてが可愛い……」 「んっ……あ、あ……羽原さん……」  思ったより簡単に指先が中に潜り込んだ。異物感はあっても指先だけだからか、痛みはない。眉を寄せる優真をなだめるように甘いキスで溶かしていく。 「んぁ……、ん」  円を描くように指が動き、ぞわりと不思議な感覚が湧きあがった。それは決して不快なものではなく、むしろ腰の奥が熱くなる疼きだった。  指で丹念にほぐされ、身体の緊張もとけていく。指が増やされて羽原にキスをねだった。 「優真」 「ぅん……ぁ」  丁寧な指の動きで内襞をなぞられる。その指先が触れた一点で身体が大きく跳ねた。 「あ……っ」  同じところを撫でられ、痺れるような快感が突き抜ける。軽く押されると、快感が体外に溢れるように涙が零れた。乱れる優真を羽原は熱い視線で絡めとる。シーツを乱して喘ぎ、違和感に萎えていた昂ぶりも張り詰めた。溢れるしずくで濡れそぼるそれは、今にも弾けそうだ。 「羽原さん……っ」  張り詰めたものに長い指が絡み、中を強めに押されて白濁が噴き出した。胸が喘ぐほどに荒い呼吸でくたりとベッドに沈む優真を、羽原はじっと見ている。視姦されているような熱い視線に肌が甘く騒いだ。 「優真、いいか?」 「……うん……」  優真が頷くのを確認して指が抜かれる。緊張した面持ちで羽原が両脚の間に身体を入れた。 「だめでも嫌わないでくれ」 「そんな心配しなくていいよ。羽原さんを嫌うなんて絶対できないから」  視線をおろすと、羽原の熱は熱く猛ってしっかり角度を変えている。心配することなどないだろうに、やはり不安なのだろう。たくましい腕にそっと手を添え、落ち着かせるように撫でてあげると、強張った表情が少しほぐれたように見える。 「ああっ……」 「っ……」  孔を押し開いて熱い塊が滑り込む。指以上の質量を迎え入れるのに呼吸が詰まった。内側を拓かれていく感覚など初めてで、現実ではないような違和感を抱く。 「……羽原さん……」  偽りのような感覚が徐々に現実味を帯びて、奥に進む昂ぶりをしっかりと感知するようになると違和感も薄れていった。重く息をついた羽原が動きを止め、すべてがおさまったことを知る。 「大丈夫か?」 「うん……。思ったより、平気。羽原さんは?」 「もういきそうなくらい興奮してる」  優真だけでなく、羽原も初めてきちんと繋がれていることに感動しているようだった。思わず胸が疼いてその身体を抱き寄せると、中にある存在をはっきり感じてしまい恥ずかしくなった。 「優真、キスしていいか?」 「んっ……」  返答を待たずに唇が重なる。舌で歯列をなぞられ、粘膜を愛撫されて思考が蕩けた。優真の両脚を持ちあげた羽原が腰を動かす。 「あっ……ああ……っ」  擦られるたびに声の糖度が増していくことを自分でも感じる。はしたないほど甘い声が恥ずかしいのに抑えられない。  最奥を穿たれ、眼前が白く光った。鋭い快感に心酔し、羽原に揺さぶられるまま乱れる。陶然と優真を見つめる瞳の色は熱く、せつなく眉を寄せる表情にさえ欲情してしまう。 「ああっ……あ、だめ、そこ……っ」 「ここか?」 「あっ……」  擦れるところが敏感になり、抉られる甘い刺激が腰にずくんと広がる。じわじわとせりあがってくる絶頂感に、つま先が空を蹴った。 「あ……あ、あ」  追いあげられて窄まりが収縮する。羽原の表情が歪み、腰を打ちつけられた。余裕のない動きに羽原の限界も近いことを知る。 「だ、め、いく……いく……っ」  がくんと背が反り、顎があがる。熱い飛沫が腹に散った。内に熱の形を刻み、奥深くで羽原もまた欲望を吐き出した。どくどくと脈打つ昂ぶりの動きを感じてしまい、達したばかりだというのに腰が甘く疼いた。
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