最悪な初恋

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「優真」 「ん……」  乱れる吐息を分け合うようにキスをする。薄く目を開けると、羽原の睫毛がぼんやりと見えた。 「優真のおかげだ」 「うん。よかった……できたね」  額を合わせて微笑むと、羽原は照れたように頬を赤く染めた。 「初めてが優真でよかった。俺はずっと優真に惹かれていたんだ」 「そうかなあ?」 「絶対そうだ。だってこんなに感動してる」  ゆらりと揺れる瞳が眩しくて、頬を撫でながら優真から唇を寄せる。触れ合った吐息は甘くて熱かった。 「俺は地味で存在感皆無なのに?」 「いじめないでくれ」  情けなく眉をさげる羽原が可愛くて、もう少し意地悪をしたくなってしまう。そんな気持ちを読み取られたのか、頬を軽くつねられた。 「今はもうそんなこと思ってない」 「あのときは思ってたんだ?」 「……」  降参、と瞼をおろした羽原に抱きつく。こんなに可愛い反応をされたら、意地悪がくせになりそうだ。 「優真、ありがとう」  耳朶へのキスとともに囁かれ、くすぐったくて肩を竦める。そんな優真を、今度は羽原がいじめる。耳殻を舌でなぞり、小さな孔を尖らせた舌先で愛撫される。くすぐったさが、燻る熱に徐々に変化していく。息を吹きかけられただけで甘い吐息が零れてしまった。 「勝ったな」 「羽原さんが本気になったら、俺が勝てるはずないでしょう」  今度は優真が降参する。手のひらにキスをされ、ちゅっと吸われた。 「じゃあ勝者になにかくれるか?」 「なにかってなに?」 「優真の大事なもの」  髪を撫でられ、優しい手つきにうっとりと目を細める。 「大事なものはたった今あげたよ」 「もっと欲しい。優真の全部が欲しい」  額や頬、鼻の先に唇が触れてくすぐったい。淡い温もりは優真を大胆にさせた。 「じゃあ俺も羽原さんの大事なものが欲しい」 「たとえば?」 「……たとえば」  身体をすり寄せて優しい瞳を覗き込む。それだけで羽原は優真の欲しいものがわかったように腰を引き寄せた。 「欲しがられたら仕方がないな。期待に応えてやらないと」  肌に再び大きな手が這う。熱いキスに酔いながら、覆いかぶさる羽原の重みを受け止めた。  優真の初恋は最高だった。最悪を最高にしてくれたあなたに、一番の幸せをあげたい。 (終)
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