最悪な初恋

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 今日は休みなのでゆっくり寝た。瞼をあげてため息をつく。あの日からため息と友達だ。  羽原を好きになるなんて無理に決まっている。他の人以上に難しい。優真の考えるとおり、羽原が思ったことをそのまま口に出すタイプなら苦手な部類に入る。絶対無理だ。  そう考えて、なぜ自分はそんなに頑なになっているのだろう、とも思う。まるで羽原だけは好きにならない、と決意しているようだ。 「まあ、好きになりたくないよね」  考えるのはやめよう、と頭を小さく振って悩みを振り払う。羽原のことを考えると朝から落ち込んでしまうので、思考を停止してもう一度目を閉じた。  昼すぎに起きて軽く食事をとる。平日なので羽原は仕事だろうが、今日も店に来るのだろうか――そう思ってはっとする。どうしてあんな人のことを考えているのか。  優真が二十四だからふたつ上の羽原は二十六歳だ。その若さで機能不全というのは受け入れがたいだろう。だからといってお試しで抱かれるつもりは優真にはない。羽原ならお試しでもいい、と女性が群がるかもしれないが、優真は嫌だ。  羽原以外の人を好きになったら諦めてくれるだろうか。考えてみたが誰を好きになれるというのか、と肩を落とす。人を好きになるのが怖い。これまで気になる人がいたこともあるけれど、その人の口から否定の言葉が発せられるのでは、と想像してしまい怖気づく。穏やかで人を傷つける発言をしない辰井でさえ怖くて受け入れられなかったのだ。初恋を最初で最後としてこのまま恋心を失くしてしまうのかもしれない。ある意味、優真も機能不全だ。  引きずりすぎているとはわかっている。だが初めて好きになった人に傷つけられた心は今でもじくじくと痛む。それは、羽原にあんなことを言われた自分が可哀想、という自己憐憫なのだろうか、とも思うときもある。そこから抜け出したら世界が広がるのはわかっているが勇気が出ない。  せめて初恋があんな終わり方をしなければよかった。もっと他にも恋愛の経験があったなら、傷も浅く済んだかもしれない。 「『俺を好きになれ』、かあ」  羽原を好きになったら初恋のやり直しになるのだろうか。優真が羽原を好きになれば、彼に抱かれることも受け入れられるだろう。  ふと疑問が浮かぶ。羽原は優真をどう思っているのか。好きだとはひと言も言われていない。彼は華やかな美女が好きで、勃たないから試しに抱かせてくれ、と。つまり羽原は優真をお試しのための相手としか見ていない――。 「――絶対好きにならない」  しっかりと決意した。  のんびりしていたらあっという間に夕方になってしまった。休みの日は時間がすぎるのが早い。店はもう開店時間だ。いつも働いている時間に自宅でゆったりしていることを不思議に思うのは、休みのたびの感覚だ。 「お腹空いた……」  なにか食べよう、と冷凍してある豚肉を電子レンジで解凍する。それを炒めて冷凍ご飯を温めたものと、簡単に夕食を済ませた。  なんだか時間を持て余してしまう。これといってやりたいこともない。テレビは必要ないから持っていないし、音楽も聴かない。ゲームもやらない。読書は昔から好きだが、今はそういう気分になれない。  やはり考えてしまうのは羽原のことだ。なんとかいい解決はないのだろうか。 「……」  羽原は優真を抱く夢を見ると言っていた。それを見ると勃つ、と。  一気に疲れた。
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