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菖蒲さんの噂は学園内でもよく聞くことはあった。けれど、ただの噂だと思って全部聞かないフリをしてきた。
菖蒲さんはdomだと隠していない。滲み出るdomの雰囲気――グレアに釣られてSubの人間が近付いてくることはよくあることらしく、そして、菖蒲さんは複数のSubを『飼っている』らしい。
ずっとただの噂だと信じたかった。
生徒会長である菖蒲さんは尊敬できる人だ。それでも、俺は生徒会長の菖蒲さんしか知らない。
「君はまだ慣れてないからね。簡単なのから行こうか。……《跪け》」
「……ッ! ぁ……」
がくん、と膝から力が抜け落ちる。そのままぺたんとカーペットの床の上、動けなくなる俺の前までやってきた菖蒲さんはそのまま俺の頭を撫でた。
「――いい子だ」
ぞわりと、耳の裏、首筋の裏に熱が集まる。
生徒会活動時に褒められるときとは違う、甘く妖しい声に脳髄が痺れるようだった。
「か、いちょ……」
「菖蒲さん、がいいな。……二人きりのときはね」
「ぁ、菖蒲、さん」
「うん、よく出来ました」
首の付け根から顎の下をするりと撫でられ、そのまま顔を持ち上げられる。軽く触れるだけのキスに心音が加速する。濃くなる菖蒲さんの甘い匂いに目眩を覚え、倒れそうに下半身に熱が溜まっていった。
「ああ……はは、本当に君は随分と感じ易いらしい。今までよくdomに手を出されなかったのが不思議なくらいだ」
「ぁ、あやめ、さん、菖蒲さん……」
「きっと、君の親御さんは随分と君を大切にしたんだろうね。悪い虫が付かないように大事に、強い制御剤も与えて、医療機関と連携してるうちの学園を選んだんだ」
可哀想に、と菖蒲さんは笑う。何が可哀想なのか俺にはわからなかった。
硬い皮靴の先っぽがやんわりと俺の膝の間を潜り、膨らんでいたそこをスラックス越しにやんわりと踏みつける。
「っ、ぁ……あ……っ」
「大事にしてあげるよ。どこに出しても恥ずかしくない立派なSubにして帰してあげる。……それが僕から君にしてあげられることかな」
その言葉通り、菖蒲さんとその日から色々なプレイをすることになる。俺の欲求が溜まる度、タイミングを見計らったかのように菖蒲さんは俺を生徒会室に呼びつける。
それから最初は軽い触れ合うだけのものからドンドンプレイの内容はエスカレートしていく。中では口に出すのも躊躇いたくなるような過激なことも行った。
それもこれも全部、俺のために。
あくまで菖蒲さんは飼い主として俺の面倒を見てくれた。恋人、というにはあまりにも他人だったが、ただの先輩と後輩と呼ぶには爛れていただろう。それでも良かった。
俺は菖蒲さんに遊んでもらえること、褒められること、喜ばせることが喜びだったから。
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