再びたこやき

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再びたこやき

醤油ラーメンにはまったら、醤油ラーメンばかり。回転寿司でも寿司を食べずに醤油ラーメンを食べている蕪人なのだった。 これが、蕪人の決め食い。 借りている畑でサンチュが獲れる時期になると、そこにサラダ油と醤油を混ぜたサラダが食卓に上がるのだけれど、これは蕪人の大好物。他のおかずには目もくれず、白飯も食わずそればっか。それだけで腹を満たそうとしている。 おい、俺も食べたいよ、皿、こっちにも寄こせ。 渡し船は最終便だった。 船を下り、ようやく夜の帳が降りようとする町を歩いてホテルへ向かう。どうせならと、ユニバーサルシティウォークの中を散策。 エスカレーターで二階に上がると、お、これは。 71587ad5-6085-4208-b866-efad31d56fda TAKOPAは、たこ焼き食べ比べのコーナー。 全6店が出店している。 すげえ。大阪でしかありえない。 一応晩飯は食べたけれど。 「ちょっと食べてくか。二人で一舟」 「うん」 というわけで一店ずつ物色。 六店が軒を並べるその真ん中にはちっちゃなフードコートがあって、店の外でも食べられるようになっている。 「全部うまそうだな。蕪人、どれにする?どれでもいいよ」 「ええとねえ。それじゃ、これ」 え! 「「くくる」のたこ焼きはさっき食べたよな」 「うん。おいしかった」 「他のにしない?」 「ううん。これ」 これが蕪人の決め食い。時々こちらも被害を被る。 そんなわけでフードコートの二人掛けのテーブルに腰掛け、二人でたこ焼き4つずつ、分け合って食べているのでした。 わはは。まあ、おいしいからいいか。 なんて思っていると、ちょっと離れたテーブルから不意に視線を感じた。何?とそちらを見ると、蕪人と同じぐらいの年齢の男児が、こっちを向いてにこにこ笑っている。ビニールに入った象のぬいぐるみを抱えているかわいい男の子だった。彼は自分たちから視線を逸らさないで笑みを浮かべ続けている。 何? 彼はお母さんと一緒に来ているようだった。自分たちと同じように二人掛けのテーブルに向かい合って座っていたけれど、丁度食べ終わったようでお母さんは空の舟を持って椅子を立とうとしていた。 こちらは水色のワンピースを着たきれいなお母さん。 知らぬ間に、蕪人と自分はそちらを注目する形になってしまった。 「知ってる子?クラスの子とか」 「ううん。そんなわけないじゃん」 「そんなわけないな、近所じゃないしな。大阪だしな」 すると今度は、お母さんがこちらの視線に気づいたようだった。そして、自分の子供とこちらを交互に見ると、にっこり会釈してくれた。 鮮やかな笑顔。思わず自分も頭を下げた。 「父ちゃん、誰?」 「一向にわからん。どこかで一緒になったのかな。水族館とか」 水色のワンピースを着たきれいなお母さんと、象のぬいぐるみを抱えた可愛い男の子の親子は、食べた後のごみを捨てると手をつないで人ごみに消えていった。 「ミーナのぬいぐるみ、持ってた」 「あ。象のこと?」 「そう。あれ、SINGのキャラだよ」 SINGと言うのは、ユニバーサルで作った3Dアニメーションのはず。ミニオンズは大好きな自分だけれど、こちらはまだ観ていない。 それより。 「きれいなお母さんだったな」 「あ。うん」 「谷口愛李ちゃんみたいだった」 「父ちゃん、また櫻坂か」 69d58b13-cfbc-4513-9d4d-dcf028ca9d64
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