「自業自得」

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「自業自得」

d996786f-fc1f-4e66-ba73-1e2493395c74 長い一日でした。 ホテルの部屋は22階。真ん前がユニバーサルシティウォーク。 自分たちはさっさと部屋に戻ってしまったけれど、窓から見下ろすと外はまだまだ賑わいやまず、USJの中では、ジェットコースターが上っては下り上っては下り。 このホテル、外から見るとすごく薄い印象がある。モノリスが立っているような。でも多分、それのおかげできっとどの部屋からでもちゃんと眺望が約束されてる。反対側の部屋からの景色は広がる海のはず。 ホテルの洋式風呂の使い方を説明すると、それを一人で完遂し、ちょっと得意げだった蕪人はさっきまで、ぼやっとテレビで「吉本チャンネル」なんかを観ていたけれど、すごく眠そう。 歯を磨かせると、すぐに眠ってしまったのでした。 そして、電気も消して真っ暗な夜中。自分は、静かにドアをノックする音で目が覚めた。枕もとの時計を見ると、0:30。なんだ?怖い。 立って恐る恐る覗き穴から外を見ると。 あ。松重豊。 と言うか、むしろ井之頭五郎だ。 薄いカバンを持ったスーツ姿の松重豊が、穴からこちらを窺がっている。 でも、本物の松重豊がここを訪ねてくるはずがない。 これは、遼太郎だ。 自分はドアを開けて彼を中に招き入れ、窓際の椅子に座らせた。 「ごめん、遼太郎。朝、忘れちゃって。声掛けてくれればよかったのに」 「いいのいいの。これでおっけ。俺は楽しんでるよ」 「それにしてもそのなり」 「ははは。腹が減って、きた。ぴ、ぽ、ぱ」 これは、井之頭五郎の真似だ。 「俺は神だからな、本来、形がない。だからな、逆にこんな風に遊べる。俺は人間の中で一番好きな人になってみた」 「なるほどね。あ、そうだ。ハヌマーンは?」 「今夜は、天王寺動物園だな。猿山に泊まるとさ。ここにもちょっと来てるはずだけど」 「え?自分は会ってない」 「そう?」 そう言うと突然遼太郎は屈みこみ、ベッドの下を覗き込むと、そこに手を突っ込んだ。手に持っていたのは。 「あ。パンツ」 それは男物の履き古したパンツだった。留守中に訪れてきた場合、その証拠に男物の履き古したパンツを置いていくのは、ハヌマーンやその知り合いの猿たちのちょっとした習慣らしい。シェムリアップで泊まった時も知らない人のパンツが部屋に置いてあったし、ハヌマーンの住居である東京の我が家の物置の前にもしょっちゅう知らないパンツが捨てられている。 「遼太郎は昼、何してたの?」 「そんなもん決まってんじゃん。このなりですることは一つ」 「孤独のグルメ?」 「ピンポーン。ウーロン茶、ジョッキで飲みながらな」 自由な奴だ。 「それはそうと、俺がなんでこの時間におっさんを訪ねたかわかるか?」 「あ?ああ、多分」 「俺たち「そこさく」観ねえとだよな」 「そこさく」と言うのは「そこ曲がったら櫻坂」と言う櫻坂46の冠番組だった。日曜の夜0:50 -から1:20。正確に言えば日が変わった月曜日の未明に放送されている。 「今日はあれだろ、新曲。「自業自得」のフォーメーション発表」 「番組のおしまいにね」 「自業自得」は櫻坂46、9枚目シングルのタイトルだった。どんな曲なんだろう。予想が全くつかない。 それにしても、奇遇と言えば奇遇。 前回の8枚目シングル「何歳の頃に戻りたいのか?」のフォーメーション発表は、シェムリアップへの苺郎との旅の一日目の夜だった。 今回も旅の一日目の夜。 「でもね、遼太郎、急ぐ必要はない」 「リアタイしたいじゃん」 「あのさ」 「なんだよ」 「「そこさく」は関西ではリアルタイムで観らんないんだよ」 「え?そうなの?」
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