ハリー・ポッター

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ハリー・ポッター

お城の前にできていた列は意外にも早く進み、でも、早く進むけれどとにかく長い。自分たちが並んだのは、長い列のほんのしっぽの先。列はお城の門に入ってから何度も何度も折り返し、やっとたどり着いたアトラクション。途中に「乗り物酔いしやすい方はご遠慮ください」という注意書きがあり、実際それを見て列から抜けていった親子がいたけれど、蕪人、もはや乗る気満々。まあ、大丈夫でしょう。 自分たちが乗る番が来て、あの漆黒の闇の向こうには何があるのかドキドキ。 観覧車式にどんどん発着する四人横並びのゴンドラに乗ると、隣のお二人は白いセーラー服の女子高生。絶滅危惧種だ。わあ。 「こっちだよ」なんて、箒に乗ったハリーポッターに先導されながら、ゴンドラに乗って向かう体験型3Dアトラクション。こりゃ、楽しい。 大人も絶対楽しい。 ゴンドラは急降下、急上昇、急回転、急加速を繰り返す。空に浮かんだ時の浮遊感がすばらしい。勿論、ゴンドラがそんな風に動いているわけがない。目の錯覚がそう感じさせてくれているのだけれど、この迫真さ。 現代に生まれてよかった、と思える。 最後は学校の皆さんに迎えられ、何故か褒められて、いや悪い気分ではない。あっという間の時間でした。 ffc8d7b3-5187-4c0b-b355-8c49951f3477 でも、もう、なんかこれでもうお腹いっぱい。 ここに来た目的は果たした気分になってしまったよ。 すっかり満ち足りて散歩する。お土産なんかも物色したけれど、いかんせんハリー・ポッターの世界を知らな過ぎて、そこには食指が動かない二人。 JAWSの水上を行くアトラクションは蕪人が乗りたくないと言う。まあ、疑似的にサメに食われる体験だろうからね。しょうがない。 ジェットコースターは二人とも初めから駄目。 マリオ・ブラザーズの世界へは別に入場料が必要だし、予約も取ってない。そもそも自分たちにとってあまりにもなじみがない。 それで辿り着いた、ミニオンの疑似現実アトラクション。 これは楽しかった。 ミニオンの世界から出てきて、時計を見るとまだ午前。 でも、向こうの方に出入り口が見えている。どうも自分たちはあっという間にすべての場所を回りつくしてしまったらしい。人によっては泊りがけで二日間遊ぶというUSJも、怖いもの嫌いで乗るものが限られている自分たちにとっては半日の行程。そこがちと寂しい。こんなに早く帰るのが惜しい。 でも、あ。 「蕪人。ミュージカル観られるみたいだよ。SINGのやつ」 映画SINGの世界の動物たちが、どうも生のステージを見せてくれるらしい。 「ミュージカル?え?いいよ、俺」 「いやいや、蕪人。これ見ないと俺たち、もう出口に向かうだけだぜ」 「ううん」 乗り気でない蕪人だけれど、ここは引けない。これで帰るのは味気ない。 それで無理やり彼を説得して、自分たちはステージの専用劇場の中に入り列に並んだのでした。USJでの時間はその半分が並ぶ時間だ。 「並ぶの飽きた」 「そう言うなって」 そんな会話をする自分たちに突然、後ろから声がかけられたのでした。 「あの。かにな」 なんて? 振り向くと、あ、あの青いワンピースのお母さん。 おでこが広くて光ってる。いたずらそうに笑う小さな口が可愛い。 やっぱり谷口愛李さんに似てる。 かわいい男の子も一緒だ。同じ列に並んでたのか。 でも、何? 「はい?」 「あの。かにな」 ? 「むっだど主人がお世話になってら」 なんて?なんて? 男の子が笑いながらお母さんの服を引っ張った。 「かっちゃ。標準語で」 あ、と手を口に当てるお母さん。わ、きれいだな。 「すいません。つい。深澤さん、いつも主人がお世話になってます」 この人、自分の名前を知ってる。 でも?主人って? 誰の奥さんだ?こんなきれいな。 「シヴァは私の主人です。この子は、ガネーシャ」 「わ」 「申し遅れました。私、パールヴァティーと申します。初めまして」
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