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ガネーシャ
ユニバーサルスタジオ駅から電車で2駅で、西九条。
西九条から乗り換えて電車で5駅で、新今宮。
あくまで体感だけれど、駅間も短い。
目的地は通天閣。そこまではたった30分の経路。
大阪の距離感はほんと、コンパクトだ。こりゃ、インバウンド人気もわかる。
もう一周USJを回るというパールヴァティーもとい佐々木母子と別れ、自分たちは車中の人となり、今、新今宮に向かう電車の座席に並んで座っているのだった。USJには遼太郎も後から来るらしい。どうせなら朝から一緒にいればいいのに、あんなきれいな奥さんと可愛い子供をほったらかしにして「孤独のグルメ」とは。ホントあいつの気が知れない。
蕪人は車窓の外を眺めている。自分はスマホを立ち上げ、改めてシヴァとパールヴァティー、ガネーシャについて検索したのでした。
ひゃあ。すげえお話だ。
なんだこれは。
ガネーシャは所謂動物的な生殖行為の末に生まれた子供ではないらしい。なんと、パールヴァティーの垢から生まれたのでした。
垢。
まあ、神様の垢だから、その物件がどれほどのものかは知らないけれど。
ある日、パールヴァティーがお風呂に入るからと、ガネーシャに見張りを頼んだ。そこに戻って来たのがシヴァ。本来戸籍上(戸籍?)親子関係なのだけど、なにせガネーシャは垢から生まれたから父の顔を知らない。父だって子供の顔を知らない。入れろと言うシヴァ、母の言いつけを守ってそれを拒むガネーシャ。で、シヴァは何せ気が短いもんだからガネーシャの首をはね、その頭をどこかに投げ捨ててしまった。
子供相手に何やってんだ、あいつ。
パールヴァティーがお風呂から出ると、首のない我が子が倒れてる。
日本人としては過去の嫌な事件をいくつか思い出す。吐き気を催す。リアルに想像してはいけない。しかも下手人は自分の夫。
パールヴァティーに事情を聞いて急いで首を探し始めたシヴァ。しかし、いくら探しても見つからない。
ほとほと困ったシヴァは、通りかかった象の首をはね持ち帰った。やることがやけくそだ。いくら神だってやっていいことと悪いことがある。
というか、あなたのその性格よ、性格。全部適当すぎる。
これは、大丈夫な人なのか、否、神なのか?
その後、シヴァは首のない死体に象の首をくっつけて一件落着したことになっている。ちなみにこの時、パールヴァティーがどういう反応をしたのかについては書かれていない。
いずれにしてもこうして、ガネーシャは象の首を持つ神として蘇ったらしい。
ふうん。
パールヴァティーはよく許したな、これ。
離婚でしょ、絶対。
訴えられなかっただけましだ。法がなくてよかったな。
神話の世界は乱暴。
顔を上げ、電車の電光表示を見るとあと二駅で新今宮でした。
「ねえ。とうちゃんってば」
「え?え?」
蕪人がさっきから自分に呼びかけていたらしい。気付かなかった。こいつはそもそもちょっと声が小さい。
「駄目?」
「え?何が?」
「健太君と約束しちゃったんだけど」
「だから何を」
「今度青森行くって」
「へ?」
「青森。行きたい」
考えもしなかった。
「凄く面白いんだってさ」
「青森?青森のどこ?」
「恐山ってとこ。健ちゃん、去年お母さんと行ったんだって」
恐山!
「いやいやいやいや」
「ねえ。駄目?恐山行きたい」
「あはあ」
「すごく面白いらしいよ。USJみたいに」
「USJみたいに」
「いっぱいいるって」
いっぱいいる、って。
何が??
「あははは。ちょっと考えよう。予算の問題もあるしさ」
何がいっぱいいるんだろう。怖くて聞けない。
美人の神様なら大歓迎だけど。
そういえば、自分たち四人がUSJを歩いているとき、佐々木真弓さんことパールヴァティーが見つけてくれた神様を写真に収めてきたのだ。これだけ人が集まっていると神様が紛れていることもあるらしい。
「ほら。あの子。あの子は神ですよ。ぬいぐるみのティラノを手なずけてますよね」
こんな神様なら大歓迎なんだけど。
恐山かあ。
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