はなびら 4

5/6
前へ
/56ページ
次へ
「でも、これは。多分印刷だ。縮小コピー」 「コピー? じゃあ、偽物?」  翡翠の指摘に反応したのは隼人だ。魔符は普通、制作者本人の手書きが基本だ。描くことで魔光を込めるから、印刷では魔光は『充電』されていないということになる。だとすると、効果は期待できない。という意味だろう。  だが、その言葉に翡翠は首を横に振る。 「いや。偽物ってわけじゃないよ。このインク。魔道化鉱石の粉末を使ってると思う。それで、『充電』してるんだ」  高濃度の魔昏に晒されて魔昏を帯びた鉱石を魔道化鉱石と呼ぶ。魔道具の素材になったり、魔法の触媒になったりするもので、魔符を作る際には砕いて粉末状にした魔道化鉱石をインクに使うことは一般的だった。それ自体が魔道の力を帯びているし、魔光の流れを潤滑にすることができるのだ。ただし、かなり高価なため、高額で希少な魔符を作るときに使われることが多かった。 「とは言っても……こんなもんじゃ、大した効果はないよ? 見た限り……これ、ストーカーされていたって人から、預かったんだろ?」  翡翠の言葉に一青は頷いた。 「使用済みにしては。全くと言っていいほど魔光を帯びてない。多分、魔道……アルミニウム……かな? それの魔昏の欠片が残っているくらい。使ったのは一般人だな。  きっと、一般の人が使っても……。  うん。そうだな。たとえば、なんとなくその人がいる方向が明るく見えるとか、その人の感情がすごく高ぶったときの声が聞こえた気がするとか、怒ったら熱く感じるとか、悲しんだら寒く感じるとか。そのくらいのことしか分からないと思う。殆ど、気のせいレベルだよ。  ……ただ」  そこで、翡翠は一呼吸置く。  今、言ったような効果ならあまり問題はない。思い込みが激しいストーカーならそれで、一応は満足するかもしれないけれど、そんなものはマスターベーションのおかずにされた程度の問題だ。 「魔光を本当に持っている人が使ったら話は別だ」  じっと、花びらを見つめて、翡翠は言った。 「これは、ちゃんとした魔符だ。正しい法則に則って描かれている。だから、力を持った人が使ったら、盗聴器と盗撮用のカメラとGPS情報の発信機を兼ねた上に、張り付けられた人の感情まで読み取れる怖いものだ」  もちろん、翡翠はこれが何なのか、一目見た時からわかっていた。 「能力が高いわりに見つかりにくいのは、強度を捨てる代わりにステルス機能に特化させているからだ。ちょっとした結界でも通り抜けるとき壊れてしまうけど、壊れたときの痕跡が小さくて、その上魔光の痕跡も見つけにくい。見ての通り、視覚的にはすぐに見つかるけど、ぱっと見は花びらがどこかから落ちてきたくらいにしか思わないから、捨てられて終わりだしね」
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加