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カフェ・ライムライトへようこそ
「い、いらっしゃいませ!」
慣れない接客のあいさつ。張り切りすぎたその第一声は、ちょっと裏返っていて、やっぱりぎこちなくなってしまった。
無理もないと思ってほしい。
何せ私がこんなセリフを言うのは、大学時代の学祭の出店以来なのだから。
そしてそれ以上に、お店の持っている素敵なオーラにすっかり圧倒されていたから。
「いらっしゃいませ」
一方マスターの言う「いらっしゃいませ」はもの慣れて穏やかだ。
低めでよく響く心地よい声。いかにもお客様の求めているものを提供してくれそうな、安心感。
まさにこの店の主人にふさわしい落ち着きに満ちている。
そんなマスターの声は、お客様を優しく出迎えるとともに私の背中もそっと押してくれる。
そう、ここからは、私が私の仕事を自分で頑張る時間だ。
まずはぐるりと周りを見回す。抑えめな光に照らされた店内は、今まで働いていたごく普通の……しかもブラックだった会社のオフィスとは、比較にならない素敵な空間。古風だけど洗練された雰囲気だ。
背筋が伸びる思いになりつつも、こんなにも魅力的な店が新しい私の職場なのだと思うと現金なもので自然と心が浮き上がる。
上質な木目のトレイの上に、磨きあげられたクリスタルガラスのタンブラーを乗せて、お客様の席へ向かった。
まだ新品のエプロンのポケットには、ちょっとないくらいシャレたボールペン。抜群の書き心地のそれで伝票を記入し、マスターに注文を伝える。
慣れないながらも、フードやドリンクの準備の手伝いもする。
棚から取り出す食器類は優雅さが際立つ品ばかりだ。このシリーズは青い装飾がとてもきれいなのだけど、確か相当いいお値段がするはずなので、間違っても割らないように神経を使う。
注文の品を揃えてお客様にお出ししたら、なんとかひと通りの作業が終わる。
お客様の様子を見ながら、お水を注ぎに行ったり、追加の注文を受けたり。
そしてお客様が立ち上がったタイミングを見て、レジで伝票を見ながらお会計を受け持つ。
最後にお客様が帰るところをお見送りする。
とあるカフェのアシスタントスタッフ。
それが私が始めたばかりの新しい仕事だった。
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