2.

2/2
前へ
/4ページ
次へ
 なかなかいい曲だ。たぶん動画サイトのランダム再生で流れたものだろう。後で曲名(タイトル)を確認しよう、そう思ったところで、先の曲がり角から年嵩の刑事が出てきた。  おいおい、尾行対象と鉢合わせしてどうするよ、チョンボじゃねぇか。鼻で笑いながら顔を上げ、一瞬で肝が冷えた。刑事はさっきまでの気だるい様子から一変、厳しい目で俺を見ている。 「藤井、下着泥棒の容疑は晴れたぞ」 「え……っ」  若い刑事が俺の真後ろに立ち、退路を塞いだ。  何かまずいことになっている、それだけはわかった。下手をうったら詰む。冷や汗が背筋をつたった。 「お前、さっきの歌はいつどこで聴いた?」  さっきの歌? さっきの歌が、なんだ? どこで聴いた……?  必死で記憶を辿る。女の歌声。暗く蒸し暑いクローゼット。さっきまで歌っていた口から垂れた、赤い舌── 「あ……」  思い出した。あれは一昨日の夜、空き巣に入った部屋に帰ってきた女が、身を隠している俺に気づくまで繰り返し口ずさんでいた歌だ。 「明日のライブでお披露目するはずだった新曲だよ」  刑事が俺を睨んだまま、ドスの効いた声で言う。 「お前に殺されなければな」  なんてこった。怨みによる犯行に見せるために、財布の現金さえ盗らずに帰ってきたってのに。 「署で詳しく聞こうか」  俺にとっては呪いの歌となったメロディが、殺した女の声で脳内に響いていた。 【了】
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加