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「藤井さんねぇ、あんた水曜日の夜8時、どこにいた?」  花金の正午前、アパートにやってきた刑事は、「お前を疑っている」という態度を隠そうともせず俺に聞いた。平日昼間に部屋着でいる男に職業を聞くでもない。俺が定職なし前科ありのならず者だと承知なのだろう。 「水曜日の夜っすかぁ? この部屋にいましたけど」 「へぇ、誰かと一緒だったかい?」 「いや、見ての通り一人暮らしで」 「なるほどねぇ」   二人組の刑事の年嵩の方が、俺の肩越しに部屋をのぞく。狭い1Kで、奥には誰もいない。調べられたらまずいものはあるが、今日は令状もなさそうだし大丈夫だろう。若い方の刑事は、俺とは目も合わせず手帳にペンを走らせている。 「なんかあったんすか?」  何も知らないという(てい)で聞いてみる。警察は「質問するが質問に答えない」奴らだと覚悟していたが、意外にも年嵩の方がダミ声で応じた。 「この辺りで、干してた下着が盗まれる事件が相次いでてねぇ」 「下着ドロぉ?」  思わず声がひっくり返る。予想の斜め上すぎる容疑だ。
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