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1.
「藤井さんねぇ、あんた水曜日の夜8時、どこにいた?」
花金の正午前、アパートにやってきた刑事は、「お前を疑っている」という態度を隠そうともせず俺に聞いた。平日昼間に部屋着でいる男に職業を聞くでもない。俺が定職なし前科ありのならず者だと承知なのだろう。
「水曜日の夜っすかぁ? この部屋にいましたけど」
「へぇ、誰かと一緒だったかい?」
「いや、見ての通り一人暮らしで」
「なるほどねぇ」
二人組の刑事の年嵩の方が、俺の肩越しに部屋をのぞく。狭い1Kで、奥には誰もいない。調べられたらまずいものはあるが、今日は令状もなさそうだし大丈夫だろう。若い方の刑事は、俺とは目も合わせず手帳にペンを走らせている。
「なんかあったんすか?」
何も知らないという体で聞いてみる。警察は「質問するが質問に答えない」奴らだと覚悟していたが、意外にも年嵩の方がダミ声で応じた。
「この辺りで、干してた下着が盗まれる事件が相次いでてねぇ」
「下着ドロぉ?」
思わず声がひっくり返る。予想の斜め上すぎる容疑だ。
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