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それはそうだろう。噂好きのセラピストたちが作ったギスギスした店の雰囲気は、リラックスしたいと来ている客にとって真逆の効果をもたらす。接客も技術もみんな彼に及ばず、良くしようという努力も見られなかった。
柊が感じていた残念さは他の客も同様で、夕里の噂が広がっていないかと念のため確認してみた口コミサイトには、彼女たちへのクレームばかりが書かれていた。……千尋に紹介しなくてよかった。
歓楽街を抜けて駅につく。待ち合わせは六時十五分、花屋の前。水色、黄色、桃色。
軒先に置かれた鮮やかな色の花々に混じって、凛と白い百合がある。少し横向き加減に咲かせる優美な姿は、うちの子と比べると物静かな趣がある。
まぁでも――
「柊さんっ!」
「ゆりくん!ごめん、遅れて……」
「会いたかった〜〜〜っ」
――うちの子がいちばん可愛い。
柊を見つけた瞬間、向こうでぴょんと飛び跳ねた気がした。駆け寄ってきた夕里は、いつものように抱きつこうとして外であることに気づき、そっと肩に手を置いてくる。身体はでかいのに、行動がかわいすぎる。
「……あとでぎゅっと抱きしめさせて下さいね」と耳元で囁かれ、匂わせられた甘い響きに心臓が震えた。
別に感動の再会を演じなくたって……帰る場所は一緒なのに。外で待ち合わせて、デートをしてみたいと申し出たのは自分なのだ。
それでもやっぱりこんな風に会うのは嬉しくて、ドキドキして、楽しい。幸せな感情で胸が詰まって、つかのま目を閉じた。甘いものを噛み締める。
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