1.雲上の楽園へようこそ

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「……それがですねー。疲れたお客さんを探してたんですよ!ヘッドマッサージ、どうです?基本的には頭だけ、触っても肩から上だけです。めちゃくちゃ癒やされますよー」 「え、ガチのマッサージだったのか?」  苛々して男の手を振り払った柊は目を丸くして、口をあんぐり開けた。    職場の最寄り駅近くの繁華街。夜のネオンが眩しいなかでは全ての客引きが妖しく見える。  特にマッサージは成人男性向けのいかがわしい店とそうじゃないものの境界が曖昧で、自分はどうやら勘違いしていたらしいことに気がつく。    一階にコンビニの入っているビルの六階にその店はあるらしい。少し薄暗いエレベーターホールに誘導されると、メニューの書かれた立て看板が置いてあった。男はそれを柊に見せながら、メニューの説明を始める。  三十分、六十分、九十分……全てにカウンセリングがつく。けっこう長いメニューもあるんだな。ショートコースで三十分ねぇ。  そんなに長時間頭だけ触ったら、髪がボロボロと抜けるんじゃないだろうか。柊はストレスによる抜け毛を気にし始めるお年頃だ。 「悪いな。毛根を大事にする僕にはちょっと……」 「その髪、綺麗に染めてるのかと思ったら地毛なんですね。目も薄茶色だし、色素が薄いのかぁ……。あ、どっちかというと抜け毛防止にも効果ありますよ? 眼精疲労、不眠、あとはリフトアップにも抜群に効きます」  リフトアップはどうでもいいが、一日中パソコンと向き合っている自分にとって眼精疲労とは長年の付き合いだ。さいきんは仕事のことを考えていると、なかなか寝付けない日も多い。    この前なんてついに白髪を発見して愕然としたのだ。個人差はあると知っていたけど、自分にはまだ無縁のものだと信じていたのに。
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