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01 白戸千鶴の『黒』
白戸千鶴。
彼女は、鬼畜の父親と淫売の母親から、ネグレクトを受けてきた。
体の傷は無かったが、心の傷は数知れず。
言葉の暴力で、幼い千鶴の心は傷だらけだった。
だが、そんな異常を察した誰かによって、
千鶴は、この地獄の生活から解放された。
その時預けられた施設が、千鶴の人生を大きく変える事になる。
『ひだまりこども園』
ここは、子供たちのための拠り所。
様々な事情を抱えた子供たちが、ここで暮らしている。
施設長の名前は、
芥公子。
私財を投じてこの施設を作り、子供たちの後押しをしてきた。
これまで巣立った子供たちは皆、立派に社会で活躍している。
それは、公子の手腕の為せる業だった。
そんな時、新たに保護された子供が千鶴だった。
「芥先生、宜しいですか?」
「どのような状況でしたか?」
公子が聞いた状況は、顔が歪むほど酷いものだった。
「とにかく心の傷が深くて、他の施設では…。それで、先生にお願いできればと…」
「分かりました。すぐに連れてきてください」
こうして千鶴は、公子の施設に預けられた。
千鶴に初めて対面する。
公子は、千鶴に優しく語り掛けた。
「千鶴ちゃん、私の名前は芥公子です。今日から此処があなたの家だよ?よろしくね」
「…はい。白戸千鶴です。お世話になります」
千鶴は、きちんとお辞儀をし、挨拶をした。
千鶴の瞳の奥に見える、心のキズ。
公子は、その何も写していない、漆黒の瞳にそっと寄り添った。
千鶴は、周りに決して関わろうとはしなかった。
これまで、両親の仕打ちから心を守るため、
外からの接触を、全て遮断してきた。
ひだまりは明るい。
先生たちは、千鶴に優しく接してくれる。
ここで暮らす子供たちも、朗らかで温かかった。
だけど、これまでそうした付き合いをしてきたことが無い千鶴にとって、
どうやって他人と接したらいいか、分からなかった。
そんな千鶴に公子は、
「千鶴ちゃん、おともだちが怖い?」
「…怖くはないんですけど、どうしたらいいのか分からないんです…」
「そっか。じゃあ、私と一緒に学んでいこう」
「…学ぶ?ですか?」
公子は、ぽんぽんと優しく千鶴の頭を撫でながら、
「そう。自分以外の他人との付き合い方を学ぶの。千鶴ちゃんが無理をしない、他人にも嫌な思いをさせない、そんな付き合い方をね?」
この日から、千鶴は公子の隣で、独り立ちした時に困らないように、人との接し方を学んでいく。
それと同時に、自分で出来ることを考え、いずれ巣立つ時に役に立つよう、必死に勉学に励んだ。
千鶴は、常に学業で首席を守り続け、やがて公子の助言を受け、大学まで進学した。
「先生、これまで本当にありがとうございました。先生のお陰で今の私があります。これからも、頑張りますので」
「千鶴ちゃん。今があるのは、千鶴ちゃんが頑張って来たから。これからも頑張ってね。そして、いつでも帰っておいで。ここは、千鶴ちゃんの家だから」
こうして、千鶴は『ひだまり』のわが家を巣立っていった。
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