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02 赤崎龍二の『黒』
赤崎龍二。
彼は、
表の顔、赤崎カンパニー株式会社 代表取締役社長。
そして、
裏の顔、極道・赤崎組の若頭。
これら二つの顔を持っている。
表では、様々な取引先と腰を低く、物腰柔らかく接している。
端正な顔立ちのため、取引先の娘の婿にと、何かと声を掛けられていた。
だが、裏では深く、闇夜のような『黒』を纏い、
組の若頭として街の隅々に睨みをきかせる。
いずれにしても、龍二はどちらの顔でも『自我』を晒したことが無かった。
今日も表の会合を終え、待っていた車に乗り込む。
身体を投げ出し、溜まった淀みを吐き出していると、
「龍二、お疲れ~。あの社長、自分の娘を推して来ただろ?」
「…」
軽い口調で話しかけてくるこの男は、
山本拓海。
龍二の側近で、学生の頃からの付き合い。
龍二が若頭を襲名すると同時に組所属となり、そのまま若頭付きとなった。
付き合いが長いので、龍二が一言えば全てを理解し、仕事も完璧。
龍二には不可欠な男だった。
「二度とあのジジイの席を設けるな」
「そんな事言われてもねぇ…。親父からの指示だからさ。そもそも、龍二が身を固めないのが悪い」
龍二は現在31歳。
これまで女の影さえなかった。
龍二はずっと探している。
自分の奥深くにある、
火種を燃え上がらせるような、そんな唯一を。
だが、自分の視界に入るのは、見るに堪えない女ばかり。
外側だけ着飾り、中身のない…そんな女たち。
そんな女をどれだけ見ても、心が震える筈が無かった。
そんな龍二に、拓海はいつも気遣う。
「龍二、飲みに行くか?」
「いや…戻る。今日は、悪酔いしそうだ…」
そう言って、目を閉じる。
それを合図に、拓海はそれ以上声を掛けず、
車はそのまま、マンション滑り込んでいった。
□◆□◆□◆□
翌日、龍二は拓海から叩き起こされた。
「龍二、起きろ。今日は組関係の会合だ。準備しろ」
「…」
くあっと欠伸を一つして、仕方なく起きる。
「メシは?」
「…いらん」
ボクサー1枚。
無駄な肉のない、引き締まった身体。
腹筋は割れ、美しいシックスパック。
龍二は目を覚ますため、そのまま浴室に向かった。
勢いよく頭からシャワーを浴びる。
徐々に目が覚め、頭がクリアになってくる。
鏡に映る自分の瞳には、覆い尽くすような深い『黒』。
そして、その中にあっても消えない焔。
「お前は、誰で満たされる?」
黒く染めることで作られた自分。
「俺は、誰の前で曝け出せる?」
龍二は、そんな奥底に燻る焔と、自身が求める唯一を探していた。
身なりを整え、装備を着こむ。
黒く染めた自身に、ブラックスーツ。
それを着ると、龍二の表情が眼光鋭く変わる。
そこにいるのは、赤崎組の若頭。
龍の血族。その正統なる跡目だった。
「行くぞ」
「承知」
拓海が美しく腰を折る。
こうして二人は、今日の『裏』の仕事へ出かけていった。
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