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03 魂の廻り逢い
車に乗り込み、スケジュールの確認をする。
「拓海」
「今日は、昼までこの会合。関連の幹部たちも集まるから、そこで飯」
「…わかった」
「後は、そのまま屋敷に行って、組内の会合」
せっかくの休みが一日潰れるなと、龍二がうんざりしていた時だった。
信号が赤に変わり、車が交差点で停まる。
龍二が、いつもは見ない、街の喧騒に目をやると、
そこで、雑踏の人ごみの中にいる、千鶴を見つけた。
龍二が思わず、投げ出していた身体を起こす。
多くの人が行き交う駅前で、千鶴は特別異質だった。
まだ幼い印象を残す千鶴は、
その印象を変えるほどの漆黒を纏っていた。
何ものも寄せ付けず、何ものにも染まらない。
そんな確固たる拒絶を龍二は感じた。
何となく、千鶴から視線を離せずにいると、
千鶴の漆黒の瞳と目が合った。
黒塗りのこの車の中で、龍二は一瞬でその瞳に心奪われた。
喧騒を見据える深い漆黒。
だが、あの瞳には何も映っていないだろう。
その漆黒の瞳にゾクゾクする。
その瞳に自分だけを映したい。
心の中の燻る焔が、千鶴の『黒』を渇望する。
「拓海、あの黒い女」
「分かった。珍しいな…お前が女に反応するなんて。すぐに調べてもらう」
拓海は、龍二のひと言に全てを察し、喧騒の中の千鶴をスマホで写すと、
急ぎの仕事の時に利用する、とある業者に即座に依頼した。
□◆□◆□◆□
千鶴の調査を依頼して一週間。
業者から連絡が来た。
「えらく時間が掛かったね?」
「うん。意外と複雑でさ。一応、彼女の両親のことまで調べておいた」
「親?」
「詳しくは、それ読んで?…それで、彼女は赤崎に何の関係があるの?」
業者、松山ミリヤは首を突っ込んでくる。
「龍二が所望したんだ」
「げ。あの龍ちゃんが?」
「そ。多分、本気」
「そう…。ねえ拓海、彼女の心の傷は深い。これまで独りで生きてきたから、他人を寄せ付けない。選択を間違うなと言っておいて?逃げられたら多分、捕まえるのは無理だから」
拓海は、ミリヤの忠告を深刻だと受け止めた。
マンションに戻り、龍二にミリヤの忠告も含めて報告したが、
龍二は意外にも冷静だった。
「だろうな。まだ成人したばかりの女が、あんな雰囲気を滲ませるんだ。余程の事だろう」
「意外と理解してるんだな?まだ一瞬、見ただけなのに」
拓海の感心する一言を他所に、千鶴の心の傷の深さを想う。
だけど、どれだけ時間がかかろうと構わない。
捕まえたら一生離さない。
龍二は迷わなかった。
…千鶴。
お前は、俺の焔が見初めた。
あの瞬間、俺の『黒』が晴れた。
だから迷わない。
そして、お前の『黒』も晴らしてやる。
千鶴…必ず、お前を俺の手の中に。
龍二はそう心に決め、千鶴に逢いに行くことにした。
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