04 漆黒を祓う

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04 漆黒を祓う

 龍二は、千鶴に逢うために、彼女のバイト先を訪れた。  そこは龍二の知己で、大学の同期、早稲田翼(わせだつばさ)の店だった。  店に入ると、翼が龍二を見るなり声をかける。 「………珍しい奴がきた。久しぶりだなぁ、龍二」 「ああ。翼も相変わらずだな」  翼とは、若頭を襲名して以降、極力接触を避けてきた。  その理由を翼も理解しているので、何も言わない。  ただ、こうして逢えば自然体で応えてくれる。  龍二には、有難いことだった。  久しぶりだったので、思いのほか話し込んでいると、 「お疲れ様です」  鈴音のような、耳に心地いい声が聞こえた。  千鶴の音色が、龍二の心臓を鷲掴みにしてくる。  ガラにもなく緊張している自分がいた。  翼は、そんな龍二を千鶴にざっくりと紹介する。 「千鶴ちゃん、こいつ赤崎龍二っていうんだ。大学の同期で腐れ縁」 「そうですか。いらっしゃいませ」  龍二は、千鶴のそんなテンプレな返しに苛ついた。  千鶴を真正面から捉えようと、身体ごと視線を向ける。 「「…」」  互いに纏う、違う色の『黒』。  千鶴の黒曜石のように深い漆黒の瞳。  龍二の纏う、夜の闇のような漆黒の奥には、紅い焔。  この時、龍二と千鶴は、同じことを感じていた。  そうやって何も言えず見つめ合っていると、  二人から離れていく翼を、千鶴が目線で追いかけ、龍二から視線が逸れる。  それが再び龍二を苛立たせた。  苛立ちは、理不尽な独占欲を溢れさせる。 「おい、俺以外の男を見るな」 「……」  困った顔をする千鶴に、龍二は名を尋ねる。 「名前は?」 「………白戸千鶴です」 「そうか…。なぁ、千鶴」  龍二から名前を呼ばれた瞬間、千鶴の『黒』が波立った。  龍二は、千鶴の頬に指を滑らせ、そのまま両手で包み込み、  千鶴の纏う漆黒を祓う、最強のひと言を告げる。 「お前は、どうしてそんなに傷だらけなんだ?」 「…っ」  その瞬間、千鶴の瞳が大きく揺れる。  どうして知っているのかと、表情が物語る。  龍二は千鶴の『黒』を知っている。  それに気づくと、抑えきれない感情が零れ落ちて、  涙と共に、千鶴の『黒』が砕け散った。  龍二は、感情が溢れ止まらなくなった千鶴を、そっと抱きしめた。 「千鶴、泣けたな。良かった」 「…」  千鶴は、龍二の懐を温かいと感じた。  これまで、全てを呑み込むような漆黒を纏い、壁を作ってきた。  誰も寄せ付けなかった。  誰も近づいてこなかった。  何より、千鶴がそう仕向けていたから。  だけど龍二は、そんな千鶴の心に優しく侵攻してきた。  千鶴の魂が、赤崎龍二の魂を渇望している。    深層にある『黒』を、一瞬で祓ってくれた龍二。  そんな彼を拒むという選択肢は、千鶴には無かった。
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