05 漆黒と焔

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 龍二と千鶴は、今日も互いを慈しむ。  どんな事があろうと、二人の心は揺るがない。  だけど二人は、外の世界ではやはり『黒』を纏う。  龍二と共にするようになった千鶴には、  新たに外の世界に付き従う、側近が付いた。 「慎治くん、蒼佑さん、今日もお願いします」  山本慎治(やまもとしんじ)。  梅沢蒼佑(うめざわそうすけ)。  いずれも、千鶴の身辺を警護し、  いざという時は、命を賭して千鶴を護る。  大学には、蒼佑が送迎し、慎治が学内で彼氏として付き従う。 「千鶴、行くぞ」 「うん」  大学内では、交わす口調も変化する。  慎治は、千鶴に群がる輩を、  千鶴の与り知らぬ位置で、ことごとく蹴散らす。  千鶴も、学内で他の女から絡まれると、  漆黒を湛え、冷たく撃退するのだ。  だが、慣れない対応は、千鶴の心に大きなストレスとなる。 「千鶴、大丈夫か?」 「うん。ありがとう、慎治」  千鶴は、付き従ってくれる二人の為に、気丈に振舞い気遣う。  だが、そんなストレスは、千鶴の心をざわつかせ、  ざわついてしまった心は、必ず龍二に気取られた。  今日も、千鶴の瞳に僅かに残る『黒』。  龍二は、そんな千鶴をそっと抱きしめた。 「千鶴、隠さなくていい。何があっても二人を千鶴から外すことはない」 「…本当ですか?」 「当然。二人はよくやっている」 「迷惑ばかりかけてしまってて…」  千鶴の心にあるのは、いつも龍二のこと。  そして、付き従ってくれる二人のこと。 「千鶴、大丈夫。二人はお前の側近。迷惑とは思わない。何でも頼れ」 「……私には、難しいです」 「それも大丈夫だ。千鶴の思った通りにすればいい。二人は理解している」 「…はい」  龍二は、そのまま懐に抱えてベッドに沈む。  ざわついた心を宥めるように、千鶴の背中を撫でてやる。 「…りゅぅじ…さん」 「眠れ、千鶴。染まるな」  暫く睡魔に抗っていたが、やがて聞こえてきた寝息。  龍二はそれに、『黒』が残っていないことに安堵した。  まだ幼さの残る千鶴を、龍二は自分の世界に引き込んだ。  裏の世界は暗く、闇夜な黒い世界。  そんな世界で生きていくには、  自身も黒く染まらなければならない。  既に、龍二の手は汚れている。  龍二は葛藤する。  真っ新な千鶴を汚してしまわないか。  だが千鶴は、龍二の『黒』を祓ってくれる。  千鶴が傍にいるだけで、龍二の世界に色がつく。  龍二は千鶴の前でだけ、本来の自分を曝け出せた。 「千鶴。俺はもう、お前を手放せない」  心を晒す龍二に、千鶴は迷いのない言霊を告げる。 「私は龍二さんのお陰で、真っ暗で真っ黒な私の世界が、明るく温かい、虹色の世界になりました」  千鶴は龍二に感謝する。 「ありがとうございます。私を見つけてくれて」  そして誓う。 「龍二さん、私は龍二さんが望む限り傍にいます。龍二さんの大切な物は、私にとっても大切な物ですから」  千鶴の極上の笑みが、龍二の全てを包み込む。 「龍二さん、だから大丈夫ですよ。朽ちても一緒ですから」  二人の纏う『黒』は、二人の世界に何ものも、微塵も入り込ませない。  そんな二人の繋がり()は、  何があっても染まらない、強固な『黒』だった。  - 終幕 -
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