2人が本棚に入れています
本棚に追加
奴らは意外と狡猾だ。俺の足跡を追って、いずれこのモールにも辿り着くはず。
ここまで見た感じ、走って追って来たりはしない様子。
きっと警戒しているのだろう。じわじわと俺を取り囲むつもりなのだろう。
だが俺自身も、足取りは信じられないほど重くなっている。もはや走ることは不可能だった。
それでも必死に、トボトボと逃げる。
モール内の一画にある映画館が、ふと視界に入った。
なんとなく懐かしさを感じて、そして逃げ隠れる場所としても最適と思えて、自然と足がそちらへ向かう。
映画館に入った俺は、ゆったりと椅子に座り込んだ。
目の前には、何も上映されていないスクリーン。
それを見ながら……。
どうしてこんなことになったのか、頭を振り絞って、改めて考えてみる。
「……」
残念ながら、よくわからなかった。
俺の思考能力が、状況のせいで正常に機能していないのだ。
それでも発端となった出来事だけは、かろうじて覚えていた。
昔テレビで見たパニック映画。ゾンビが大量発生という物語。
あれと似たような事件が、現実で勃発したらしい。
今の俺は、映画の登場キャラみたいな立場だ。
そう、こんな感じのモールに立てこもる話も、パニック映画の定番だった気がする。
ただし映画では、仲間も一緒なのが普通だった。
一方、今の現実はどうだ。
最初は大勢いた仲間も……。
一人、また一人と、奴らの手にかかって亡き者にされてしまった。
おそらく俺が最後の一人だ。
日本中、あるいは世界中を探せば、まだ残っているのかもしれない。だがそんな長距離移動は、もはや俺には不可能となっていた。
最初のコメントを投稿しよう!