ゾンビ vs 生存者 ――昔見たパニック映画にあったみたいな――

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     奴らは意外と狡猾だ。俺の足跡を追って、いずれこのモールにも辿り着くはず。  ここまで見た感じ、走って追って来たりはしない様子。  きっと警戒しているのだろう。じわじわと俺を取り囲むつもりなのだろう。  だが俺自身も、足取りは信じられないほど重くなっている。もはや走ることは不可能だった。  それでも必死に、トボトボと逃げる。  モール内の一画にある映画館が、ふと視界に入った。  なんとなく懐かしさを感じて、そして逃げ隠れる場所としても最適と思えて、自然と足がそちらへ向かう。  映画館に入った俺は、ゆったりと椅子に座り込んだ。  目の前には、何も上映されていないスクリーン。  それを見ながら……。  どうしてこんなことになったのか、頭を振り絞って、改めて考えてみる。 「……」  残念ながら、よくわからなかった。  俺の思考能力が、状況のせいで正常に機能していないのだ。  それでも発端となった出来事だけは、かろうじて覚えていた。  昔テレビで見たパニック映画。ゾンビが大量発生という物語。  あれと似たような事件が、現実で勃発したらしい。  今の俺は、映画の登場キャラみたいな立場だ。  そう、こんな感じのモールに立てこもる話も、パニック映画の定番だった気がする。  ただし映画では、仲間も一緒なのが普通だった。  一方、今の現実はどうだ。  最初は大勢いた仲間も……。  一人、また一人と、奴らの手にかかって亡き者にされてしまった。  おそらく俺が最後の一人だ。  日本中、あるいは世界中を探せば、まだ残っているのかもしれない。だがそんな長距離移動は、もはや俺には不可能となっていた。    
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