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二人で過ごす休日
テーブルにのせていた手をためらいがちに握られる。
自分よりも大きく、細かな傷が残る手のひらに包まれると、安心とともに緊張も込み上げた。軽装である今日は彼の体温も感じる。
「賢者様……」
良いのかと尋ねるような視線が向けられる。小さな丸テーブルに体重をかけ、上半身を向かい側に近づかせた。
反対側に座るルーフスさんも同じような体勢になり、顔を寄せる。ついばむようなキスが何度か繰り返された。
緊張と喜びで心音は速くなる。この前とは違い和やかな日差しのなか、僕たちは唇を重ねる。
僕の部屋にルーフスさんがいること、そして僕の部屋でルーフスさんとキスをしていることも信じられない気持ちだった。
「ん」
思わずもれてしまった声を合図に、ルーフスさんの体が離れる。名残惜しいけどもっとしたいとも言えず、僕も体勢を戻した。
ソワソワとするルーフスさんの耳が赤いことに気づき、僕も顔が熱くなる。
「……貴重なお休みなのに、来てくださってありがとうございます」
「いえ、俺も賢者様と共に過ごしたかったので」
「嬉しいです」
恋人になってひと月ほど。ルーフスさんは勤務外の時や二人きりの時は自分のことを「俺」と言うようになった。
それだけのことでも恋人になった実感があり、喜びが生まれる。
王子の警衛担当であるルーフスさんは休みが少なく、僕も会議や色々なやり取りを受け持っているため、こうして二人の休みが重なったのは初めてだった。
きっとこの機会も王子が関わってくださっているのだろうと察している。
「しかし先程の者とのお話はよかったのですか? 俺はお邪魔だったのでは……」
「いえ、そんなことないですよ! 彼女は以前に相談を受けた物を持ってきてくださっただけなので」
「相談ですか」
十分前に一人の女性がこの部屋を訪ねてきた。城で働く従者である彼女にはある物を届けてもらう手はずになっていた。
「以前の恋人から送られてきた手紙が何だか気になると相談を受けていたんです。中を見ずに捨てたいけど禍々しい気配がして、捨てることも封を切ることもできないと」
「従者からの相談にものっていらっしゃるとは……ただでさえお忙しいのに」
「時々ですよ。無理をしてまでは引き受けていません」
余計な心配はかけたくなくて苦笑する。それに僕の元まで相談にくる人は本当にまれだった。僕自身、負担になっているとも思わない。
「何かしらの呪(まじな)いの気配はするのですが、有害なものなのかまではまだ判断がつかなくて」
さっき渡された手紙を手に取る。まだ詳しく調べてはいないけど、単なる手紙ではないことはすぐにわかった。
「あれ……」
持っている封筒に何か違和感を覚える。背中が粟立つ感覚にまずいと思った瞬間、ひとりでに封が開いた。
封筒の中から溢れ出てくる重い魔力が体にまとわりつく。呪いが発動したのだとわかった。
「っ! ルーフスさん、離れてください!」
手紙を急いで部屋の隅に投げる。しかしもう役目は終えたというように、手紙は封筒ごとボロボロ崩れた。
きっと呪いが発動したら証拠として残らない仕組みになっていたのだろう。
「賢者様!」
「う……」
床に座り込んだ僕にルーフスさんが近づく。肩に手が置かれた瞬間、ビリビリと電流が走った。
「あっ……!」
「っ」
服の上から肩に触れられただけ。それだけで僕は強い快感に襲われる。
ビクっと体を跳ねさせた僕に、ルーフスさんは息をのんだ。
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