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誠実な彼らしい
「……すみません、解呪するので一人にしてもらえませんか?」
「お一人でどうにかできるものなのですか? すぐに人を呼んできます」
「っ、待って、誰にも言わないでください!」
珍しい僕の大声に驚いた気配がする。
焦って大声を出してしまったこと、僕を心配して人を呼ぼうとしてくれたルーフスさんに感情的になってしまったこと。どちらも申し訳なくて、僕は隠すことを諦める。
「この感覚、きっと発情の呪いです……時間が経てば自然と良くなるものですから、人を呼ぶ必要はありません。せっかくの休日を無駄にしてしまい申し訳ありませんが、今日はもう……」
全身が熱く、思考も上手く働かない。呪いの一つとして存在は知っていたが、自分がかかったのは初めてだった。
体が重くて何もしたくないのに、快感を欲する渇きはどんどん強くなる。
「……こんなにお辛そうなのに一人になんてできません。その、もしよければ、俺に任せて貰えませんか」
「え?」
予想外の言葉に驚いているうちに、体が浮いた。軽々と僕の体を抱き上げたルーフスさんは、そっとベッドに降ろす。
横になった僕の視界はルーフスさんで覆われた。熱っぽい瞳は初めて見るもので、胸がぎゅっと縮む。
「俺に触られるのは嫌ですか?」
このひと月、何度かキスを交わしても、それ以上の関係に進むことはなかった。
それでも十分幸せだったけど、触れ合うことを意識したことはもちろんある。いつかはルーフスさんと関係を進められたらと思ってもいた。
でも呪いがきっかけで、仕方なくなんて嫌だ。
「ルーフスさんに触られるのは好きです……でもこの状況だから仕方なくなんて、嫌なんです」
「仕方なくなんて、そんな考えで言ったわけではありません。俺はずっと……あなたに触れたいという思いに頭が占められていました。こんなことを伝えたら幻滅されると言えませんでしたが。己を律する訓練を積んできたというのに、賢者様に触れたい欲求を抑えるのに必死になっていました」
ルーフスさんから伝えられたことに耳を疑う。いつも僕のことを気遣い、尊重してくれた彼は、どこまでも誠実で性欲なんて微塵も感じさせない人だった。
そんな彼が僕に触れたいと思っていた。キスだけでは我慢できない欲求を抱いていた。自分と同じだったのだと知ると、安堵と嬉しさ、愛しさが胸を満たす。
「そうだったんですか……それなら、その……お任せしてもいいですか?」
「はい。賢者様は楽にしてください」
楽にというのはどうすればいいのだろう。何もわからないけどとりあえず体から力を抜く。
ルーフスさんとなら安心だ、落ち着け、と思うのに心音はどんどん煩くなった。
ルーフスさんの体が屈み、顔が近づいてくる。ちゅ、ちゅっと音をたてながらキスを繰り返した。
僕の熱にあてられたのかのように、ルーフスさんも強い色気を溢れさせる。
「触れますね」
「ん……」
服の中に手が滑り込んできた。シャツをたくし上げられ、肌が晒される。ルーフスさんに見られるのだと思うと、恥ずかしさで顔を覆いたくなる。
胸からお腹をひと撫ですると、ルーフスさんはまた顔を下げた。胸に柔らかい感触が押し付けられる。
「あっ」
さっきのキスの続きだとでもいわんばかりに、ちゅうっと肌が吸われる。愛しそうに唇を押し付けられる度に、甘い疼きが訪れた。
「あっ、ん」
もれる声は恥ずかしいのに抑えることができない。僕はされるがままに、ただ声をあげ、体を震わせた。
「負担が少ないよう進めたいですが、時間をかけるのはかえってお辛いですか?」
「はぁっ……」
ルーフスさんの言った通り、彼の愛撫や手つきはどこまでも優しかった。僕が痛がらないように、無理をさせないようにというのが伝わってくる。
優しく誠実な彼らしくて胸がときめいたが、たしかに焦れったい辛さもあった。
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