外務省でステーキを

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外務省でステーキを

日本に帰っても特に何もすることが無い、というかアフリカでやってた新しい植物を作ろうという意欲が消えてしまった。モラトリアムとでもいうのだろうか。特にすごく意欲的に夢の植物を作ろうとしてたわけじゃないと思っていたのに、意外と頑張っていたのかもしれない。 とにかく魂が抜けたように、ぼーーっと日々を過ごしていた。 そんな時に、突然外務省から人が訪ねてきた。アフリカから帰国した時に色々と聞き取りをしてくれた人だったな。なんか変わった名前で覚えていたんだ。「七五三 一二三」という名刺を見たときに、何かの暗証番号かと思ったくらいだ。 「しめ ひふみ」と読み仮名が振ってあったけど、なんで「七五三」が「しめ」なんだと思ったっけなあ。名前のインパクトって大事だよな、おかげで一発で覚えた。 「お久しぶりです。お元気そうですね」 「あ、はあ。まあ・・・」 ぼそぼそと答えるが、これが元気に見えるのか。ぼさぼさの髪に無精ひげ、よれよれのジャージで、寝るのも起きるのも同じ格好なんだぞ。社交辞令だと丸わかりだ。 そんな俺のことは気が付かないのか、とにかくご飯でもどうですかと誘ってきたのでおごってもらえるんだろうと思って外に出たら、黒塗りのいかにも外務省の車ですって言うのが止まってて、ちょっとビビった。が、「七五三」が有無を言わせずにこやかに後ろから、どうぞどうぞと車に押し込んでくるので、もぉどうでもいいやと腹をくくって乗り込んだ。 「どこにご飯食べに行くんです?」 「あ、まあ。外務省の食堂ですけど。」 「ステーキくらいあるんでしょうね。」 やけくそで聞いてみた。 「なんならマグロの兜焼きもありますよ。」 ジョークなんだろうか。笑えないんだが。 「一体何なんです?」 「ま、とにかくご飯食べてからにしましょう。詳しい話は。」 外務省について、食堂に案内された。さすが外務省。こんなズタボロジャージが座っていいんだろうかという気になってしまう豪華なテーブルと椅子だ。しかも執事のようなのまでテーブルのそばで控えてる。 「こちら、ステーキがいいそうだ。」 「承知しました。1ポンドでよろしいでしょうか?」 もぉやけくそだ。 「ああ、1ポンド。ヒレの。ミディアムレア。」 とりあえず高級そうな知ってる単語を並べてみた。 「ワインは?」 「う・・・」 「ああ、これからちょっと込み合った話があるからワインは止めておこうか。その代わり食後に美味しいコーヒーとデザートを頼む。」 「しめ」さんがうまくまとめてくれた。 「ぼくは、軽くサンドイッチを。」 「かしこまりました。」 「しめ」さん、小食なんだろうか。 「それじゃ、ステーキが来る間に世間話でも。」 いやいや、外務省の世間話ってなんか怖いぞ。 「そんなに警戒しなくてもいいですよ。実はアフリカにまた行ってもらいたいっていう話なんです。だめですか?」 「え・・・。」 外務省が俺なんかをアフリカに名指しでって、どーゆーことだ。だいたい危ないからって引き上げてきたところなんだが。 「実はですね、あ、ステーキが来たので話はあとにしましょう。」 なんかすごい肉の塊が目の前に出現した。いやホント、音もなく目の前に現れたっていうか。すげーな執事。足音もしないし。 「お水も出さず、失礼いたしました。」 そういって目の前に置かれたのは「高級ガラス製品」というのが一目でわかるグラスだった。コップなんて言えない。なんなら「おグラス様」とお呼びしたくなるようなガラスの器で、向かい側に座ってる「しめ」さんの間にピッチャーっていうか、これまた高級ガラス製品とわかる水差しを置いていった。 「それでは、失礼いたします。」 「うん、しばらく人が来ないようにしてくれ。」 「承知しました。」 おお、これかリアル人払いってやつか。初めての経験だ。 ヒレのステーキはウマかった。だいたいステーキと呼べるようなものを今まで食べたことがあるかと言われると、あまり記憶にないから比較のしようもない。ただ今まで食べたことが無い柔らかい肉だということは分かった。周りは火が通っているけど中心はまだほんのり赤くて切ると温かい肉汁が出てくるので、切った塊を口に入れると幸せホルモンがドバドバ体を駆け巡って、思わず顔がニヤついてしまう。 しかしそんな幸せの後には、なにか厄介なことが待ち構えているに決まってる。
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