デビルスプランツ

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デビルスプランツ

そのあとは有無を言わさず飛行機。 外務省特権でファーストクラスのラウンジにデビューしたものの、なにしろズタボロよれよれのジャージだから居心地悪い。あとから某量販作業着屋の服やら長靴やらゴム手やらが届いたので、ジャージから作業着に着替えたものの高級ラウンジの雰囲気から浮いてるのは相変わらずだ。カメラなんかの機材は飛行機に積み込み済みだそうだ。手回しいいな、さすがエリートの外務省。どうせ地道に地面や植物と付き合って、紫外線当たりまくりで現地人にも負けない色黒になってる俺とは違うんだよ。少々ふてくされた気分になったっていいだろ、これから体張って現地調査なんだよ、俺は。 やさぐれながらも、ファーストクラスは何でも食べたり飲んだりしていいんだと聞いたから、「とにかく一番高いもの」という貧乏人丸出しなオーダーにもニッコリこたえてくれるラウンジの美人さんたち。こんなところで飲み食いするのは最初で最後だとヤケクソで寿司食べたりウナギを食べたり。酒も飲んだ。矢でも鉄砲でも持って来いってんだ。 内戦で死ぬのも嫌だが、未知の植物の調査という体のいい日本的誠意の見せ方のために、体張らなきゃいけないのも、なんか納得いかない。俺は確かに乾燥に強いマメ科植物を作ろうとはしていたんだけど、それが電気ビリビリの植物になるとは思えない。しかし知らない人から見たら「新しい植物を作ろうとしていた」人間がいて、そのあたりに未知の植物が生えてきたら疑われるだろうということも分からなくはない。 「とにかく現地に行ってホントに電気を食って伸びまくる新種の植物なのか、実際に見てみないとな。」 いい酒を飲んで少々酔っぱらいながら飛行機に乗った。それにしても「電気ビリビリ植物」というのは面倒だし長ったらしい。 いっそ「で(んき)び(りびり)する植物」ということで、「デビルスプランツ」と呼ぶことにしよう。え?「でびする・プランツ」になるじゃないかって。いいんだよ、なんとなくデビルマン的じゃないか、電気でバリバリって感じ。もっとわからない?いいんだよ、昭和の懐かしいアニメなんだよ。動画かなんかで見てくれ。 誰に言い訳してるかよくわからないが、とにかく「デビルス・プランツ」とこれからは呼ぶ。異論は認めない。 本来なら直行便などないはずだが、ほぼ直行便に乗って無事にアフリカ。 なぜ「ほぼ」直行かというと、一番近い飛行場がデビルスプランツの影響で通信などが不安定なためだ。なにしろ現代の便利なものは電気で動いている。逆に言うと電気が無いと使えないものばかりだ。だからスマホなんかは使えない。ネットも不可だ。100年前、いや目いっぱい譲歩して50年前のテクノロジーでなんとかしなければならない。最悪、記録はエンピツとノートで下手くそな観察日記のような絵を描くしかない。そんなローテクな現場でしかも電気ショックくらう危険が満載らしい。ゴム手袋とゴム長で近づいて採取できるんだろうか。いや、だいたい植物が電気を発電するとか電気をエネルギーにして成長するとか、意味が分からない。しかし、よく考えると光合成というのは光のエネルギーで水と二酸化炭素もろもろをでんぷんにして蓄えていくわけで、ある意味でソーラー発電に似ていると言えなくはない。 ソーラー発電?? はっとした。たしか研究所の周囲にはソーラーのパネルが大量にあったな。アフリカは発電事情が不安定なので、必要な電力を用意するためにソーラーで常にバッテリーに電気を蓄えて必要な電気を賄っていた。 TJの住んでいるところでも、たいていの家には小型のソーラーがあって発電してスマホやネットを使っていたっけ。 だからといって植物がソーラーパネルのようになるなんて。それなら世界中のソーラー発電をしているところで、そういう植物ができてるよな。うん、だからこれはタマタマ。あくまでもタマタマ俺のいたところの近くで、タマタマそういう植物が生えただけ・・・。 なんか段々、やっぱり自分のせいかなと思い始めたころに最寄りの飛行場についた。出迎えてくれたのは外務省が手を回してくれたらしくTJだった。 「おかえり、ようこそアフリカへ」 最初に会った時と同じように、満面の笑みで俺を力いっぱいハグしてきた。
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