白い災厄と黒い災厄

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白い災厄と黒い災厄

とりあえずはTJの家に居候という形になった。カメラやら筆記用具やら電気を使わない道具をTJの車に積んで出発だ。 TJや家族たちは幸い内戦になった時も、無事だったらしい。研究所からも少し離れていたし、研究所も標的になったのは何かの間違いだったんだろうというユルイ感じのようだけど、なにしろ跡形もない状態。というか、例の謎の植物が一帯に茂っているので近づけないし、ドローンを飛ばすとか車で行くというのも難しい。イマドキの車も電子機器満載だからなあ。行くならウマかロバだとさ。 「デモン・ブランの場所に行くって?」 ロバや馬を借りに行くと必ず断られた。アフリカではフランス語がよく使われる。こちらでは「白い悪魔」を意味する「デモン・ブラン」と呼ばれているらしい謎の電気ビリビリ植物。うん、デビルスプランツって名前は、あながち悪くないんじゃないか。ちょっと嬉しい。 しかしウマもロバも借りられないとなると、歩くしかない。が、さすがに歩くのはなあ。荷物もあるし。なんとか借りれたのはヨボヨボのロバとぼろぼろな荷車。それも万一、ロバや荷車がダメになったら法外な値段を払うという約束をしてナントカ。 実はロバもウマも借りられなくて、行かなくても良くなるんじゃないかっていう淡い期待をしていたから借りれたとTJが言ってきたときはがっかりした。俺だって好き好んで危険なところに行きたくはない。 そして、出発しようという前の日だった。 突然、TJが慌てたように飛び込んできた。 「大変だっっ。奴らが来たっっ。」 なにが来たんだと聞く間もなく腕を引っ張られて外に出ると、元研究所のあった方向の空が黒い。そして光が地面から空に向かって激しく閃いていた。 「雨雲・・・じゃないな。なんだ、あの黒いのは」 「あれが黒い災厄だ。バッタだよ。」 前にアフリカに来たときには、幸か不幸か出会わなかったサバクトビバッタの大群か。通った後には何も残らないという、恐ろしいやつら。まさかと思うけど、バッタがアレ食べてるのか。もしそうなら・・・。いやいや、何でも食べるっていっても電気までは食べないだろう。そんな昆虫、聞いたことが無い。 しかし、本体の植物を食べているのか。遠くてわからない。これは調査に行かないと。行きたくはないけど。 慌ててロバに荷車をつけて、最低の荷物だけ積んでTJと出発した。 が、ロバが段々と歩こうとしなくなってきた。そりゃあそうだ。静電気でたてがみがバリバリ逆立つし、焦げ臭いような何とも独特のにおいがするし。オゾンのにおいもした。常に落雷しているような音と光は、出発した時からますます強くなってるし。 TJも俺も結局は、出発して1時間も進まないうちに引き返すことにした。ロバが進まないから仕方ないと笑いながら。 それに普通ならバッタは、あっという間にここまで飛んでくるはずなのにそんな気配はない。もし、デビルスプランツがバッタを阻止しているなら、それはそれでいいんじゃないか。色々と言い訳しながらも、TJの家に戻って、ロバと荷車は明日また使うからと借りて置いた。 夜になって、少しずつ稲光のような光も音も少しずつ聞こえなくなった。それがいいニュースかどうかは、明日考えよう。 そして一夜あけてみれば、バッタが来た様子はない。しかも閃光や雷鳴のようなのもない。 気は進まないが、いくしかないか。バッタがいなくなっただけで植物は残ってるというパターンもある。虫のいい話だが、共倒れになっててくれるの希望。あ、虫のいい話っていうのはシャレじゃなくてっっ。誰に言い訳しているんだろう・・・ 昨日は1時間進んだところで足の止まったロバも、今日はノロノロではあるものの普通に進んでいる。静電気でたてがみがバリバリになる様子もない。 そして着いたところには何もなかった。 正確に言うと大きな水たまりがあった。どうやら夜のうちに大雨が降ったらしい。TJに言わせるとこの水たまりの消えるころには一面に花が咲いてきれいな景色になるんだそうだ。 「デモンブランは?」 さあ?というようにTJは首をすくめた。 水の中にバッタか植物のかけらでもないかと、水たまりの中に入ったが特に何もなかった。 結局、その日一日は水たまりの周りをぐるっと歩いて、バッタか植物のかけらを探したのだが、なにも収穫はない。電波など、電気系統のトラブルもウソのように消えたということは、村に戻ってから知った。 外務省も情報が速い。次の日には「戻ってくるか、そのままそちらで前の仕事を続けるか好きにしろ」みたいな連絡が来た。もちろん、アフリカに残ることにした。 ひょっとしたら、また生えてくるかもしれないじゃないか謎の植物。それがバッタをやっつけるかもしれないし。今度は、ちゃんと現場でみてみたいしな。 それまでは地味な農業指導員でアフリカにいよう。
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