夢の植物

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夢の植物

これは都市伝説のひとつである。 大地が光で埋め尽くされ 世界が闇に閉ざされるとき 空から黒い翼が降り立つであろう 「ったく、なんなんだよ。その災厄って。光で埋め尽くされる闇って意味わかんないし。」 「そういわれましても、このあたりに伝わる言い伝えで・・・。」 ここはアフリカ。 農業振興のために俺はここにきているのだが、今日は久しぶりの休みの日。まだ言葉がよく分からないので、通訳兼運転手のTJに付き合ってもらって買い物をしたり集落の人たちの話を聞いたりしてる。 話を聞くといっても、このあたりはフランス語か現地語なので英語力も大したことが無い俺はTJが頼りだ。それで聞いたのが最初のやつだった。 「古くから伝わる伝承というか、歌みたいなものです。」 「ふーーん、この辺で災厄と言うとアレだろ。バッタ。」 「そうですね、もう何でも食べつくしていきますから。」 「せっかく育ててもバッタで全部おじゃんって悲しいよなあ。」 「そして私たちは食べるものが無くなります。」 そうだ、アフリカでは死活問題なんだ。農作物が全滅してしまうということは。薬をやみくもにまけばいいというものでもない。だいたい空中散布なんていうのは効率が悪い。 「ゴキブリホイホイみたいに、バッタホイホイがあればなあ。」 「なんですか、そのホイホイって楽しそうなものは。」 「ああ、いや、日本にある害虫を捕まえる装置だ。」 「そんなものがあるのか。」 「バッタには向かない装置だけどな。」 そういうと、あからさまにガッカリするTJ。 農業指導員としては、なんとかしたいところだ。バッタに負けない植物があればいいのになあ。うん、そうだ。例えば、バッタが食べると死ぬみたいな植物なんかないものだろうか。バッタを選択的に呼び寄せてその植物のある所に誘導して殺せたらいいよな。 まず乾燥に強い植物でないといけない。そしてマメ科植物のように空中窒素固定ができたら言うことはないな。アフリカの乾いた大地を覆うように伸びて地面に直接日が当たらないようにすれば気温も上がりにくくなって、ひょっとしたら温暖化にも効果があるかもしれない。 そんな夢のような植物ができないものだろうか。 色んな文献を読んだり研究論文を調べたりしながら、試行錯誤していたときだった。 TJと研究用の資材や食料を買いに市場にいたとき、突然大きな爆発音が聞こえた。もともとこの国は内戦が絶えないところだったが、研究所のあるあたりは特に攻撃目標になるようなものもないような、いうなれば戦略的な価値のないところだったから、遠くで戦闘があったということは聞いていたが、まさかこのあたりが攻撃されるなんて・・・。 幸い市場に直接の被害はなかったが、爆発のあったのは研究所の方角。あわてて買い物を切り上げて研究所に戻ろうとしたが、TJに止められた。 「だめだ。戻っちゃ。安全なところに避難して。大使館に連絡しなきゃ。」 その日は結局、TJの知り合いのところに止めてもらって次の日には大使館に送ってもらうことになった。研究所のサンプルや資料やデータは諦めろと言われたが、そんなことを言われても諦められるようなものじゃない。 それでも惨状が分かってくると仕方ないという気持ちになってきた。大使館の人にも、たまたま市場にいて助かっただけでも運がいいと慰められた。あの時研究所にいた人たちは、消息不明らしい。それくらいヒドイありさまだったということなんだろう。 結局、そのまま日本に強制的に避難というか帰還させられてしまった。
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