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あれから数日後。
花火大会の当日。
私はお母さんに浴衣を着付けて貰い、花火大会に出かける準備をする。
病気はまだ完全には治ってはいないけれど、以前よりSNSを見なくても不安にはならなくなったし、吐き気もしなくなって来た。
きっと、恵子からの毎日の手紙とお母さんの言葉が、私をスマホの――SNSの海から現実世界へと引き上げ……連れ戻してくれたのだ。
いつもより気合を入れて髪を結い、メイクもバッチリ決めて、私は今日の持ち物が入った巾着型のバッグを手に取る。
そうして――。
「これは今日はいらないかな」
そう告げると、スマホをリビングのテーブルに置き、代わりにデジカメをバッグに入れた。
私のその行動に、驚きを隠せない様子のお母さん。
そんなお母さんに、私はとびきりの笑顔を向ける。
「だって、花火大会の感想や感動を伝えたい人は、目の前にいるから!」
だから、今日はスマホは必要ない。
私は、また泣きそうな顔をしているお母さんをぎゅっと抱き締め、そのまま家を後にする。
すると、
「弥生ー!こっちこっちー!」
家の前にある道路――その先から、私の名前を呼ぶ元気な声が聞こえて来た。
恵子だ。
「お待たせ、恵子!」
私も彼女に負けないくらい大きな声で答えると、手を振りながら彼女の元へ駆け寄ってく。
そうして私は、親友と合流し、花火大会の会場に向かって歩き出した。
スマホではなく、大切な友人の手を握りしめながら――。
【完】
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