SNS既読無視パニック症候群

14/14
前へ
/14ページ
次へ
あれから数日後。 花火大会の当日。 私はお母さんに浴衣を着付けて貰い、花火大会に出かける準備をする。 病気はまだ完全には治ってはいないけれど、以前よりSNSを見なくても不安にはならなくなったし、吐き気もしなくなって来た。 きっと、恵子からの毎日の手紙とお母さんの言葉が、私をスマホの――SNSの海から現実世界へと引き上げ……連れ戻してくれたのだ。 いつもより気合を入れて髪を結い、メイクもバッチリ決めて、私は今日の持ち物が入った巾着型のバッグを手に取る。 そうして――。 「これは今日はいらないかな」 そう告げると、スマホをリビングのテーブルに置き、代わりにデジカメをバッグに入れた。 私のその行動に、驚きを隠せない様子のお母さん。 そんなお母さんに、私はとびきりの笑顔を向ける。 「だって、花火大会の感想や感動を伝えたい人は、目の前にいるから!」 だから、今日はスマホは必要ない。 私は、また泣きそうな顔をしているお母さんをぎゅっと抱き締め、そのまま家を後にする。 すると、 「弥生ー!こっちこっちー!」 家の前にある道路――その先から、私の名前を呼ぶ元気な声が聞こえて来た。 恵子だ。 「お待たせ、恵子!」 私も彼女に負けないくらい大きな声で答えると、手を振りながら彼女の元へ駆け寄ってく。 そうして私は、親友と合流し、花火大会の会場に向かって歩き出した。 スマホではなく、大切な友人の手を握りしめながら――。 【完】
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加