SNS既読無視パニック症候群

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こうして、半ば恵子に引きずられる様にして文房具店に入った私。 しかしそこは、私が思っていたより、とても魅力的な場所だった。 カラフルな便箋に、色々な色が揃えられているペン。 封筒も様々な模様のものがあるし、手紙に貼るシールも充実していた。 だが、そんな中でも、私と恵子の目を引いたのが「文香(ふみこう)」と書かれている商品だった。 折り紙の様に綺麗に折られた色とりどりの小さな紙。 そこから、何とも言えない――良い香りがしているのである。 「すっごく綺麗だね」 「うん、それに凄く良い香り。小さい匂い袋みたい」 そう言いながら、サンプルとして飾られている複数の文香を嗅いだり、触ったりしてみる私達。 と、 「いらっしゃい、可愛らしいお嬢さん達。文香に興味をお持ちかな?」 突然、背後から声をかけられる。 振り返るとそこには――とても上品な身なりの老紳士が立っていた。 彼の胸元には名前と「店長」と書かれた名札がつけられている。 「文香を初めて見るのかな?これはね、手紙に入れて使うものなんだよ」 人の良さそうな笑顔を浮かべたまま、文香の使い方を私達に教えてくれる店長さん。 彼は複数の文香を私達に見せながら、こう言った。 「文香はね、香りと一緒に、手紙を送った相手に気持ちを伝える、小さなメッセンジャーみたいなものなんだよ。色や形、それに種類もたくさんあるんだ。例えば、春にはこの鶴の形で桜の文香とか、今は夏だから向日葵の形の文香とか。季節やその時の気持ちに合わせて、相手に文面だけでは伝わらない細やかな気持ちを、香りに(たく)して届けることが出来るんだよ」 「そうなんだ……知らなかった……」 「うん、初めて聞いたね……」 店長さんの説明に、思わず驚きの声を漏らす私達。 と、同時に――、 (これ……恵子との手紙で使ってみたら、面白いかも) 私の中ではそんな感情が芽生え始めていた。
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