あんこ〜る

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 ドンッ、ドンッ、ドンッ……。  か細い足が乱暴に階段を踏む音が近づいてくる。  私はあと三秒後に、お母さんから怒られるのであろう。 「六花(りっか)! あんた今日バイトでしょ!?」  案の定、血相を変えたお母さんがノックもせずに部屋のドアを開けてきた。  ベッドの中で蹲っている私に、容赦ない言葉を浴びせる。 「今日は休む……」 「また休むの!? 毎週のように休んでちゃ、バイト先に愛想つかれるわよ!」 「わかってるよ」  掛け布団で全身を覆い、あからさまに煙たがっているという意思表示を見せた。  お母さんは溜息をついて、今度は優しい声になって私を諭してくる。 「お母さんね、別に歌手の道を諦めろなんて言ってないわ。せめて約束したことはやってほしいだけなの」  掛け布団を貫通して耳に入ってくるお母さんの声。  言い返す資格がないことくらい、私にもわかっている。  ……小さい頃から、歌手になるのが夢だった。  一生懸命勉強して偏差値の高い大学に進学しても、どうしても歌手になる夢を捨てきれず、オーディションやコンテストに明け暮れた毎日を過ごした。  そんな生活を送っていたら単位が取れなくなってしまい、ついに留年。  大学にも行かなくなり、一年で退学した。 「大学は行かなくてもいい。その代わり、きちんと働きながら歌手を目指しなさい。お父さんと約束したわよね?」 「……うん」 「夢を目指すなら、自立して目指すって約束でしょ? ちゃんと守らないと、家を追い出されちゃうわよ」 「わかってる……」  ガサガサの声で返事をする。  お母さんはつけっぱなしだったテレビの音をリモコンで下げてから、「明日からはきちんと行くのよ」と言って部屋を出て行った。  また一人になった私は、被っていた掛け布団を放り投げるようにして顔を出した。
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