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するとまた、人並み以上に速いフリック入力が始まった。
次の文章も、満面の笑みと共に見せてくれる。
『まさに、私の理想とする歌声です。その声が欲しかった』
その文を見た瞬間、熱くなるように感動が胸に迫り、そして感無量になった。
こんなに褒められたこと、一度だってあっただろうか。
今までの苦労が、走馬灯のように駆け巡ってくる。
――オーディションの度に、審査員の心苦しい、辛辣な評価が飛んでくる。
どれほどの人間が、私のことを貶しただろうか。
本気でやっているのに、軽くあしらわれる日々。
芽が出ない。でも歌手になりたい。諦められない。
その狭間で揺れて、自分のことがわからなくなる。
励ましてくれる人もいたけど、「まだ若いから大丈夫」なんていう、無責任な励まし方が余計にきつくなったりもした。
大学は中退。捧げている音楽も鳴かず飛ばず。
まさに劣等感の塊になっていく。
この選択は間違いがないのだろうか?
親を悲しませてまで、賭けられる夢なのか。
疑心暗鬼も懸命に振り払って、ただただ歌い続けた。
自己嫌悪と戦いながら、何とか踏ん張って続けてきたのだ。
そんな中見つけた、このマッチングアプリ。
あんこ~るは、私を救ってくれる。
サイリさんの『その声が羨ましい。是非ご一緒したいです』という文が、涙で歪んで見えた。
「よろしくお願いします……やっと……やっと報われます」
サイリさんの手を掴み、ギュッと握った。
目を瞑り、感謝と想いを力に込める。
トントンと肩を叩かれ、目を開けると笑顔をキープしたままのサイリさんがまたスマホの文を見せてくる。
『その声、今すぐちょうだい』
……え?
その文が目に入った瞬間、頭上から銀色の金属のようなものが降ってきた。
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