1人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
家に帰って夜ご飯を食べ、すぐに部屋に籠ることにした。
八時間みっちりバイトで体を動かしたとはいえ、まだまだエネルギーは残っている。
一回一回のオーディションで神経をすり減らすよりも、こっちの方がいいのかもしれない。
デビューが確約されるわけではないけど、パートナーと楽曲制作することでデビューの道は開きやすくなるはずだ。
実際にこのアプリからデビューした成功例もあるし……モチベーションも維持しやすい。
つい昨日まではどん底に落ちたような気分だったのに、今はすこぶるポジティブ思考だ。
ウキウキ気分で、あんこ~るを開いてみた。
『あなたへの課題曲』
課題曲を送ってくれたのは、昨日歌わせてもらったバラード曲を作った制作者からだ。
ここでようやく制作者名が見れた。
登録の制作者名は『SAIRI』となっている。
サイリさんだ。女性だったとは。
最近よく見るユニットは、女性と男性が多い。
女性と女性のユニットは、上手くいくのだろうか……。
まあ、この際どうでもいい。デビューさえできれば。
次の課題曲は一転したアップテンポなナンバーで、まるで私を試しているかのようだった。
望むところ……昨日と同じようにAメロ、Bメロ、サビと、各パートごとに音程のズレがないかを細かくチェックしながら歌っていく。
得意な曲調ではないけど、必ずモノにしてみせる。
ところどころアレンジしてみたり、いろいろ試して私なりの形にしてみた。
もしかしたら、自我の押し付けのような表現になっているかもしれない。
でも、それでもいい。
私の良さを知ってもらわない限りは、評価なんてされない。
これで突っぱねられたら、このサイリさんとは合わなかったってこと。
覚悟の上で、私なりに歌い上げた。
防音室から出て、一度トイレに行き、流れのままうがいをする。
また部屋に戻って、昨日と同じように勢いよくベッドにダイブした。
明日はバイトも休みだし、アラームをかけなくていい。
泥のように眠り、夢を見る。
夢の中でも私は歌っていた……。
最初のコメントを投稿しよう!