魔法の色

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 私はペンキ缶の蓋を開けて中身をぶちまける。勿論色は黒だ。  床には既に空になったペンキ缶がいくつか転がっているのだが、これではまだまだ足りないと次々と黒のペンキをに浴びせかける。  もっと、もっとだ。もっとペンキを買ってこないと。こんなんじゃ全然足りない。 「黒は魔法の色……黒は強い色……黒は消してくれる……先生はそう言ってたもの……、」  バイト先に、私の名前を執拗に馬鹿にしてくる一つ年上の男がいた。私はその男が大嫌いで、他のバイト仲間もそいつを咎めてくれたりシフトを調整してくれたりした。  しかし男はシフトがない日もわざわざ店にやって来て私の名前を嘲笑うのだ。一体私がこの男に何をしたというのだろうか? 全く心当たりがない。  そして今日、久しぶりにその男とシフトがかぶったのだが退勤後にこんなことを言われた。 ──お前のことが好きなんだ、付き合ってよ。ほら、将来俺と結婚したらそんな冗談みたいな名前も少しはマシになるだろ?  何を言っているのか全く意味が分からなかった。男がヘラヘラ笑いながら言うことを要約すると"好きだから素直になれずいじめていた"ということらしい。  ……くだらない。そんなくだらない理由で私は今までこいつに不愉快な思いをさせられ続けていたのか。わたしは冗談じゃないとすぐさま断ったのだが、男はきょとんとしていた。  普通に考えて自分をいじめるヤツなんかと付き合うはずない。だがその普通が男には通じなかったようだ。  男は激昂すると私を殴った。痛みとショックでその場にへたり込むと体を担がれ、男の車へと押し込まれた。  そうして私は男の部屋へと連れて来られたのだが──部屋の主はもう息をしていない。
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