あこがれた音色

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あこがれた音色

伸びしろがある、と言うのが誉め言葉かと言うと、多分そうじゃない。 ただの嫌味。少なくとも、僕にはそう感じる。 『広崎(ひろさき)には伸びしろがある。まだ本気を出せてないだけだろ?』 『光大(こうた)ならもっともっとできるでしょ?』 『お前ならもっと伸びるって。真剣にやれよ』 担任も、母さんも、父さんも、吹奏楽の部員も。皆そう言う。 伸びしろって何だろう。本気って何だ。 僕は僕ができる最大限をやっているつもりだ。体育の授業も、テストの成績も、クラリネットのソロコンテストも。 たとえそれが50メートル走が9秒でも、学年の中の上でも、予選通過のできない金賞でも。僕なりにやっているつもりだ。 「伸びしろ、ねぇ」 僕はクラリネットを持ったまま、4階の教室のベランダからグラウンドを見下ろした。 野球部が、テニス部が、サッカー部が。傾いてきた太陽の下で、大きな声を出して部活に精を出している。 きっと彼らは本気を出して頑張っているのだろう。 本気ってどうやって出すんだろう。どうすれば自分の最大限やっているという証明になるのだろう。
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