あこがれた音色

2/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
僕は楽器を構え、息を吹き込む。 ソロコンテストで演奏した曲をなぞるように指を動かす。 楽譜通りに。 あ、リードミスした。気を付けないと。 最後の一音を伸ばし切り、口を離した。 一度リードミスした以外はミスなく演奏しきった。 その安堵感と達成感から小さく息を吐き出す。 パチパチパチ。 不意に背後から拍手が聞こえ、勢いよく振り返った。開けっ放しにしていた窓の向こうに女子生徒が立っていた。 一体いつからいたのか。気が付かなかった。 「凄く上手ね」 胸元まである黒髪を下ろしている彼女は、にこっりと微笑んで言った。 「でも、上手なだけね。楽譜をなぞるように演奏しているだけ。ねぇ、あなた今何を考えて演奏してたの?」 笑顔で刺々しい言葉を投げつけて来た。 僕はムッとして彼女を睨みつけた。 そんな僕の睨みに怯む様子も見せない彼女は、ただ微笑んで質問への返答を待っているようだった。 「盗み聞きしておいて、酷い言いようだね」 「なら言葉を変えるわ。あなた、クラリネットを吹いていて楽しい?」 言葉は変わったけれど、刺々しさは変わっていない。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!